SUVはもともと悪路を走破するクルマとして誕生したから、ワイドに張り出したフェンダーや大径タイヤなど、外観が力強くてカッコイイ。そのいっぽうで、ボディの基本スタイルはステーションワゴンに似ているから、居住性が快適で荷物も積みやすい。
そこでSUVには、荷室に3列目のシートを装着した車種が多い。ミニバンのユーザーが、3列シートのSUVに乗り替えを検討することもあるだろう。
今回は、国産SUVのなかから、3列目の快適な車種と、逆に狭くて使えない要注意モデルを挙げてみたい。
文/渡辺陽一郎
写真/編集部、MAZDA、HONDA、TOYOTA、NISSAN、MITSUBISHI
【画像ギャラリー】現行型で3列シート仕様を設定している国産SUVを紹介!!
SUVの3列目シート快適性 No.1
■マツダ CX-8
3列目シートが最も快適なSUVはマツダ「CX-8」だ。
全車が3列のシートを装着する。身長170cmの大人6名が乗車して、2列目に座る乗員の膝先空間を握りコブシ2つ分に調節すると、3列目に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ分だ。
床と座面の間隔が不足しているから膝の持ち上がった座り方になるが、3列目の乗員の足が2列目の下側にかろうじて収まり、さほど窮屈ではない。片道1時間程度の距離であれば、大人6名が乗車して不満なく移動できる。
CX-8には2列目がセパレートシートになる6人乗りも用意され、この仕様であれば、2列目の中央に空間があるから、3列目に座った乗員が中央寄りの足を前側へ伸ばせる。ミニバンにも当てはまる話だが、2列目がセパレートシートなら、乗車定員が1名減る代わりに3列目の快適性も向上するのだ。中央が通路になるから、車内の移動がしやすく、乗降性もよくなる。
CX-8の3列目シートをミニバンに当てはめると、「フリード」や「シエンタ」といったコンパクトミニバンと同程度だ。CX-8は全長が4900mm、全幅が1840mmの大柄なSUVだから、3列目の居住性がコンパクトミニバンと同程度では、空間効率が低く思える。そこがSUVとミニバンの違いだ。
ミニバンのフリードでは、1/2列目の床を燃料タンクがカバーされる位置まで持ち上げて、1列目から3列目まで床面を平らに仕上げた。そのために3列目の床と座面の間隔も相応に確保され、膝が大きく持ち上がる座り方にならない。シエンタは、燃料タンクを薄型に造ることで、同様の効果を得ている。
ところがSUVは、このような3列目に配慮した床面構造を採用していない。3列目の床は、燃料タンクのために、1/2列目よりも高い。そのためにSUVの3列目は、床と座面の間隔が不足して、膝の持ち上がる座り方になってしまう。
またミニバンはエンジンルームの前後長を短く抑えて、室内長を拡大する設計手法を採用するが、SUVにこの工夫はない。そこで全長が5m近いCX-8と、4m少々のフリードやシエンタの室内空間が同等になるわけだ。
それでもCX-8は、SUVの3列目としては、座面を柔軟に造り込んだ。膝が持ち上がって腰が落ち込む窮屈な着座姿勢になるものの、座り心地は悪くない。ミニバンのプレマシーやビアンテを廃止した今、CX-8はマツダでは唯一の3列シート車で、なおかつ最上級車種でもあるから座り心地にも配慮した。
SUVの3列目シート快適性 No.2
■ホンダCR-V
3列目シートの快適なSUVで、2位になるのがホンダ「CR-V」だ。1.5Lターボエンジン搭載車に、2列と併せて3列仕様を用意した。シートの座り心地は、SUVの3列目としては柔軟に仕上げた。
身長170cmの大人6名が乗車して、2列目に座る乗員の膝先空間をCX-8と同じく握りコブシ2つ分に調節すると、CR-Vの場合は3列目の足元空間を十分に確保できない。大人が座るのは難しい。そこで2列目の膝先空間を握りコブシ1つ分まで詰めると、3列目に握りコブシ半分程度の余裕ができた。
足元空間は狭いが、意外に実用性が伴う。1列目の下側に十分な余裕があり、2列目に座った乗員の足が収まりやすいからだ。膝先スペースを詰めても、着座姿勢に無理が生じにくい。
3列目の着座姿勢は、CX-8と同じく床と座面の間隔が不足して膝が持ち上がるが、2列目の下側に足が収まるよう工夫した。そのために片道45分程度の距離であれば、大人の多人数乗車にも対応できる。
CR-Vで注意したいのは、3列シート仕様の価格が高いことだ。SUVの3列目ありの相場は5人乗りに対してプラス7~15万円だが、CR-VではEXがプラス19万4700円だ。上級のEXマスターピースでは、3列目のシート生地が合成皮革になるため、22万7700円の上乗せになってしまう。CR-Vは車両本体価格も割高で、これに連動して3列目シートも高額になった。
SUVの3列目シート快適性 No.3
■トヨタ ランドクルーザー&レクサス LX570
両車ともに全長が約5m、全幅は約2mと大柄だが、車内はあまり広くない。特に悪路向けのSUVだから床が高く、2列目に座っても、膝の持ち上がる座り方になってしまう。3列目はさらに窮屈で、膝を抱える姿勢になりやすい。
それでも足元空間は相応に確保され、身長170cmの大人6名が乗車した時、2列目の膝先空間を握りコブシ2つ分に調節すると、3列目の膝先にも握りコブシ1つ分の余裕が生じる。床と座面の間隔が、2/3列目ともに不足して膝は大きく持ち上がるが、片道30分程度の距離であれば多人数乗車も可能だ。最小限度の実用性が備わる。
SUVの3列目シート要注意モデル 1
■日産 エクストレイル
売れ行きが堅調な人気SUVのなかで、3列のシートを備える車種は日産「エクストレイル」だ。全長は4690mmだからCR-Vよりも少し長く、荷室も相応に広いため、2Lノーマルエンジンを搭載した売れ筋の「20Xi」に3列シートの7人乗りを用意した。
3列目の足元空間は狭い。身長170cmの大人6名が乗車した時、2列目の膝先空間を握りコブシ1つ分まで詰めても、3列目に座る乗員の膝が2列目の背面に触れてしまう。床と座面の間隔も足りず、膝が大きく持ち上がる。大人が多人数で乗車するとしても、片道15分までだ。
ただし3列目シートの価格は割安で、7万3700円の上乗せに収まる。CR-Vと違って、付加価値として妥当な設定だ。
SUVの3列目シート要注意モデル 2
■三菱 アウトランダー
三菱「アウトランダー」のノーマルエンジン車は、全グレードに3列のシートを装着した。3列目の造りはエクストレイルと同様で、膝が大きく持ち上がる。
身長170cmの大人6名が乗車した場合、2列目の膝先空間を握りコブシ1つ分まで詰めて、3列目の膝先は握りコブシ半分程度だ。エクストレイルに比べると若干の余裕はあるが、大人が多人数で移動するなら片道15分までだ。
以上のようにSUVの3列目シートは、基本的には荷室に装着される折り畳み式の補助席と考えたい。
それでも1年に数回、短い距離を移動するために3列シート車が必要なユーザーには、合理的な選択になり得る。3列目をまれに使うために、わざわざ本格的なミニバンを購入したのでは、通常の用途で快適な3列目がムダになるからだ。3列目を畳んで荷物も積まないとすれば、まったく使われない空間になってしまう。
普段はSUVのカッコよさと運転の楽しさを味わい、必要な時だけ3列目シートを使う。このようなニーズに応えられることも、SUVが人気を高めた理由だろう。
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