次世代モビリティ社会に向けて考えるべきこととは?
編集部:「もう少し先ならいい」ということでしょうか?
後藤氏:カーボンニュートラル社会へ向けてCO2排出低減の観点から、ガソリンや軽油に課税することは理解します。
また、エンジン搭載車の省燃費化が進んで税収が年々減っており、それに対して(より車重が重く、道路に負担をかける)EVやFCVの走行に課税する方法が現時点ではない、ということも理解しています。これらを整理する必要はあるでしょう。
しかしそれは、今議論されている「走行距離税」というかたちでは難しいし、そもそもの話として全体シェアがまだ1%程度のEV・FCVに課税したところで、税収は上がりません。
そもそも今、日本社会はEVやFCVに多額の購入補助金を出しているわけで、そのEV・FCVに課税するというのは、アクセルとブレーキを一緒に踏むようなものです。
編集部:車体課税(取得時と保有時)を下げて、燃料課税も下げて、足りなくなった財源はどうすればいいとお考えですか?
後藤氏:自動車産業はこれまで地方税収にも大きく貢献してきており、この産業が衰退すれば税収への影響は大きいでしょう。日本の自動車ユーザーは国際的にも高い税負担をしており、負担全体のあるべき水準も踏まえて税制を検討していただきたいです。
また、今後、次世代モビリティ社会となった時に、受益と負担の関係が変化するはずです。その際に、データの利活用等による新たな受益についてどう考えていくかも含めて検討していく必要があると思います。
政治へお願いしたいことは「共感してほしい」
編集部:いま政治家に一番訴えたいことはどんなことですか?
後藤氏:まずは「共感してほしい」、ということです。自動車産業は日本の基幹産業です。多くの雇用を生み、地域経済を回しています。波及効果も大きい。その自動車を、国内で作れなくなるかもしれない……。この危機感を共有していただきたいんです。
群馬でも、栃木でも、愛知でも、広島でも、熊本でも、工場の町に来て、現場を見てください。もしそこで、自動車工場がなくなったら……という意味を実感してほしいです。これ以上、日本国内で新型車が売れないと、自動車メーカーは「日本に工場を置く意味は……?」という話をせざるをえなくなります。
編集部:自動車産業は「裾野が非常に広い」という特徴があります。もしこれが衰退し、工場を撤退するようなことになると、経済や雇用に甚大な影響が出てしまいますよね。
後藤氏:おっしゃるとおりですし、現時点ですでに危機的状況にある、ということを、政治家の皆さんにはご理解いただきたいです。米トランプ政権による関税に加え、世界各国で競争が激化しています。国内自動車メーカーはどこも非常に苦戦しており、予断を許さない状況にあります。
いま必要なのは国内消費の活性化で、内需を守っていただきたい。地方社会にとってクルマは必需品であり、クルマを買いやすくすることは物価高対策になり、ユーザー利益に繋がります。
編集部:米トランプ政権が国内自動車産業を重視し、関税を上げたのも、国内製造業の保護と内需拡大が目的ですしね。
後藤氏:日本はアメリカほどの国内市場がありません。それでも、少しでも国内市場でクルマが買いやすくなれば、国内に工場を置く意義が強まるし、雇用も守れます。順番とスピードを間違えなければ、まだ国内で作り続ける力を守れます。
編集部:自動車関連税制の改革のほかに、日本政府や日本社会が日本の自動車産業のために出来ることはありますか?
後藤氏:そうですね……できれば企業の挑戦を、後押しする社会になってほしいと思っています。新たな技術に挑戦して失敗したらゼロになる……という状況では技術は成熟せず、企業は保守的になっていきます。
そうでなく、一定のリスクを背負った挑戦を応援する「前へ進む文化」にして、イノベーションを後押ししてほしい。たとえば自動運転でも、海外では試行錯誤を前提に社会実装を進めています。日本も「過度に止めない制度設計」へシフトしてもらえるとありがたいです。
規制は“安全のためのガードレール”であって、“挑戦のブレーキ”であるべきではないと思うのです。


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