やっぱりミッドシップは最強!?  “真ん中に置く”という贅沢!! 「国産MR車」列伝

やっぱりミッドシップは最強!?  “真ん中に置く”という贅沢!! 「国産MR車」列伝

 エンジンを座席と後輪の間に搭載するのがミドシップ(MR)レイアウト。レースカーにも採用されるこのレイアウトのメリットとデメリットはどこにあるのか? 国産のMR車が少ない理由を考え、さらに国産MRの名車も振り返っていきたい。

文:長谷川 敦/写真:トヨタ、ホンダ、マツダ、CarWp.com

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なぜミドシップが最強なのか?

やっぱりMRは最強!? “真ん中に置く”という贅沢!! 「国産ミドシップ」列伝
エンジンを座席とリアタイヤの間に搭載するミドシップレイアウト。画像は初代ホンダ NSXで、V6エンジンを右にオフセットして横置きマウントしている

 伝統的なMR(ミドシップエンジン・リア駆動)は、純粋に速さのみを追求したレーシングカーでは定番となっている。

 その理由は、重量物であるエンジンをなるべく車体の中心寄りに搭載することによって運動性能を高めることと、駆動輪であるリアタイヤに十分な荷重を与えられること。

 フロントエンジン車のように車体中心から遠い位置にエンジンがあると、直進状態から向きを変える際に大きな力が必要になり、車体の運動性能は低下してしまう。

 ポルシェに代表されるリアエンジンマウントは、駆動輪の荷重は得られるものの、コーナー中にテールが流れた際には慣性の力が大きく、それを制御するのが難しくなる。

 こうした理由から、市販車改造モデルを除き、レース専用に作られたクルマのほとんどがMRレイアウトを採用していて、それは走行性能を重視したスポーツカーでも同様だ。

 フロントエンジンレイアウトであっても、前輪軸より後方にエンジンを搭載して前後重量配分を50:50にしたフロントミドシップレイアウトのモデルもあるが、後輪への荷重を得やすく、フロントを軽くできるリアミドシップのほうが運動性能において分があるともいわれている。

どうして国産ミドシップモデルは絶滅してしまったのか?

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現時点では最後の国産ミドシップスポーツカーとなってしまったホンダ S660。2022年に販売が終了していて、中古車市場では高額になる個体もある

 現行型の国産市販車でMRレイアウトを採用したモデルは存在していない。

 その理由はいくつかあるが、最も大きいのは使い勝手の悪さだ。

 ドライバーとリアタイヤの間にエンジンを搭載すれば、それは必然的に室内空間やラゲージスペースの減少を招いてしまう。

 いくら“運転するため”のスポーツカーであっても、よほど経済的余裕がある人でなければ、移動や買い物などにMRスポーツカーを使うこともあるはず。

 その際に、乗車可能人数が少なくて荷物も乗らないMRスポーツカーは不便極まりない。

 それに比べれば、フロントミドシップのFRスポーツカーやFFスポーツのほうが日常使いに適している。

 加えてミドシップスポーツカーの機敏さは、ときには運転の難しさとなって表れ、それもMRスポーツが国内市場に受け入れられなくなった要因のひとつと考えられる。

 また、エコが重要視される現代社会においてスポーツカーの肩身が狭くなっていることも国産MR車消滅を加速させた。

 現代の日本はMR車冬の時代ともいえるが、次の項では日本車の歴史に彩を添えたミドシップ車を紹介する。

国産ミドシップの名車たち

●トヨタ MR2/MR-S

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日本初の量産型ミドシップスポーツカーの初代トヨタ MR2。MRは「ミドシップランナバウト」を意味していて、その名称は後継モデルのMR-Sにも引き継がれた

 日本初の市販MRスポーツカーとして1984年に発売されたのがトヨタのMR2。

 それまであまり尖ったイメージのなかったトヨタから本格ミドシップスポーツカーが登場したことは世間に驚きを与えた。

 初代MR2はFFモデルである5代目カローラのエンジンやトランクアクスルを流用することによってMRレイアウトを実現しているが、この手法は過去の海外製ライトウェイトミドシップスポーツカーにも用いられていた。

 うまくコストを抑え、手の届きやすい価格で発売された初代MR2の評価は高く、それが1989年の2代目デビューにもつながった。

 2代目MR2ではセリカ系コンポーネンツを採用し、それに伴ってサイズも大型化した。

 エンジンもパワーアップされたが、足回りの進歩がそれに追いつかず、特に前期型はじゃじゃ馬的な性格も話題になってドライバーを選ぶクルマともいわれた。

 その後マイナーチェンジが行われて操縦性も向上し、事実上の後継車であるMR-Sが登場する1999年まで販売が続けられた。

 MR-Sではプラットフォームを一新し、全長も短くなったこともあってハンドリング特性は好評を得たが、スポーツカー人気の低迷などにより後継車種を残すことなく2007年に製造販売が終了した。

●ホンダ S660

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エンジンを車体中央に配置したミドシップ軽スポーツカーのホンダ S660。コンセプトや走行性能が高く評価されたものの、1代限りでその歴史を終えた

 ホンダのS660は、最も近年まで製造販売されていた国産MR車だ。

 販売開始は2015年で、軽自動車規格のS660は、1991~1996年に販売されたホンダ製軽MRスポーツカー・ビートの再来ともいわれ、大きな期待とともに市場に迎えられた。

 ビートのイメージを引き継ぎつつ、現代風にまとめられたS660のデザインは人気を集め、軽量な車体とMRレイアウトが生み出すキビキビとした走りは多くのユーザーに愛された。

 しかし、ホンダではEV(電気自動車)の開発への注力、排出ガス規制の強化や市場環境の変化などの理由から、純ガソリンエンジン車のS660の生産終了を2022年に決定し、同車は惜しまれつつも市場から姿を消すことになった。

●オートザム AZ-1

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マツダがオートザムブランドでリリースしたAZ-1。特徴的な外観でも注目を集め、軽量な車体とターボエンジンの組み合わせを武器に高い走行性能を発揮した

 マツダが販売店の多チャンネル化を進めていた1992年にオートザムブランドからリリースされたAZ-1は、同時期のホンダ ビート同様にMRレイアウトを採用した軽スポーツカー。

 AZ-1の外観で最初に注目されるのが上方に開くガルウイングタイプのドアで、全体的なフォルムも小さなスーパーカーといえるほど攻めたものだった。

 ミドシップマウントされた660cc直3 DOHCターボエンジンは軽量な車体を軽々と加速させた。

 このように遊び心満載のAZ-1だったが、バブル景気崩壊の影響も受けて販売は低迷し、登場から約2年で販売終了となった。

●ホンダ NSX(初代)

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初代ホンダ NSX。ホンダのフラッグシップモデルとして1990年に登場。安価ではないが、がんばれば入手可能な価格に設定されたのも人気を集める要因になった

 1990年、当時のF1エンジンでは無類の強さを発揮していたホンダが、そのイメージを生かして製作したミドシップスポーツカーがNSX。

 完全に新規開発したボディ&足回りに、ホンダ レジェンドのエンジンをベースにした3リッターV6ユニットが搭載されたNSXは、十分な性能を誇りながらも海外製スポーツカーよりもリーズナブルな価格が設定され、発売と同時に高い人気を集めた。

 ミドシップレイアウト以外にも、世界初のオールアルミ製ボディを採用するなど注目ポイントは多く、高性能スポーツカーでありながらリアのトランクにはゴルフバッグ(専用品)も積めるという利便性の高さも特徴に数えられた。

 結果的に初代NSXはロングセラーモデルになり、マイナーチェンジやアップデートを重ねながら2005年まで販売が行われた。

 2016年に後継車種の2代目NSXが発売されるが、こちらはハイブリッドの高級車であり、初代とは趣の異なるモデルだった。

 前述のとおり、現在は国産ミドシップ(MR)モデルが販売されていない。

 しかし、ミドシップスポーツカーには他には代えがたい魅力があるのも事実であり、いつの日かまた、新世代の国産ミドシップスポーツが登場することを期待したい。

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