昔から欧州車のシートは硬めで長時間運転しても疲れにくく、しっかりとした作りで評価が高いが、その一方で、日本車のシートは薄ぺらでフワフワしていて安っぽいといわれてきた。
しかし、最近デビューした日本車のシートが目に見えて、よくなってきている。しかも高級車ではなく、コンパクトカーやハッチバック、SUVに、そうしたいいシートが装着されているのだ。
はたして、いいシートとはどんなシートなのか? どんなクルマにいいシートが装着されているのか? モータージャーナリストの松田秀士が解説する。
文/松田秀士
写真/ベストカー編集部 ベストカーWeb編集部 ホンダ マツダ
【画像ギャラリー】座り心地抜群のシートが取り付けられている良心的な日本車
クルマの運転はスポーツと同じ
唐突ですが、バランスボールに腰かけたことがあるだろうか? 別にバランスボールの上でアクロバティックなエクササイズを行うのではなく、ただ普通に腰かけるだけ。
もし家にバランスボールがあるなら試してみてほしい。方法は膝が90°前後に曲がるくらいに空気を入れて座ること。腰に上半身の体重のほとんどをかけると安定せず、上体が揺れたり曲がったりするはず。
これを安定させるには背中を真っ直ぐに立てて、両脚に体重を30%強移す必要がある。両足に体重を分散させて背中を真っ直ぐに立てると何が起こるかというと、上半身の体重を骨盤に乗せることができるようになるのだ。
アスリートによってはデスクワークを椅子の代わりにバランスボールで行っている選手もいるくらい。
この骨盤に乗るという行為はとても重要で、例えば柔らかいソファーに座っている状態から立ち上がるとき、人は必ず一度上体を起こして骨盤の上に乗ってからでないと立ち上がれない。
守備に着く野球選手がピッチャーがセットモーションに入ると、皆中腰になって構える。あれもしっかりと骨盤に体重を乗せて、打球にすぐ対処するためなのだ。
どのようなスポーツも骨盤への体重コントロールが重要なことが分かってもらえるだろうか?
ではなぜ、クルマのシートを説明する上で、この例を出したのか? クルマの運転はスポーツだからだ。
ステアリング操作やMTのシフト操作、さらにはペダル操作。これらは上手に骨盤を使えてこそ成り立つのだ。
ところがクルマのシートでは両足に30%強もの体重を移動できない。つまり、ほとんどの体重で腰かけるシートに依存しなくてはならない。だからシートの良し悪しが重要になってくるのだ。
ボクがレースを戦っていたF3000マシンやインディカーなどのフォーミュラーマシンでは、発泡剤や大量ビーズ(発砲スチロール)によってドライバーの身体にピッタリ合わせたオリジナルシートを作る。
空力に頼る構造上、ドライバーは寝そべったスタイルでドライブするので骨盤には乗れない。
ブレーキペダルは100㎏前後の強い踏力で踏み込む必要があるのにだ。それでも窮屈なくらいピッタリのシートと6点シートベルトで固定するのでハードなドライビングをすることができるのだ。
しかし、みなさんが運転する一般車は窮屈なほどピッタリではないしシートベルトはゆるゆるの3点式だし、おまけに両足に30%強もの体重を分散することもできないのだ。
どうでしょう? いかにみなさんが運転するクルマのシートが重要かお分かりいただけただろうか?
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