日本車にシート維新 安いけどいいシートのクルマが続出中!

欧州車のシートはなぜ優れていると言われているのか?

1983年に発売されたW201型190シリーズ。日本では1985年から輸入販売
190Eのシートはペダルが踏みやすいように着座状態でドライバーの膝が曲がる角度が120度になるように設計されており、硬めながらも疲れにくい構造

 前置きが長くなってしまったが本題に入ろう。我々がクルマを評価するときに、欧州車のシートが優れていて日本車のシートへの不満を口にする。いったい何が違うのだろうか?

 ボクは1980年代の終わりにベンツ190Eというクルマを購入した。クルマも素晴らしい出来だったが、シートが極上だった。

 ただの布製シートだったのだが、何時間走ってもどこも痛くならない。表皮が特別ソフトなわけではないのに、不思議にしっとりとした座り心地があり、それでも腰のあるようなしっかり感がある。運転操作にも適したシートだった。

 その頃の国産車というと、とにかく柔らかく、かなり前寄りにシートポジションをセットしてもコーナリングで横Gを受けるとステアリングが遠くなる。

 つまりコーナーでドラポジが崩れていたのだ。そして長時間走るとどこかが痛くなる。これを当たり前と日本人は考えていたのだろう。

 この頃の欧州車と日本車のシートの差は、人間工学を基にした設計思想の違いともいえるのではないだろうか。

 人それぞれ体型の違いがあるからステアリングやペダル操作をしやすくするために、シートレール上を移動させ背もたれ角を調整する。このことに対する座と背の連動した調整値が欧州車はまるで違っていたのだ。

 例えばベンツやVWなどドイツ車の手動式調整シートは、シートレールの前後移動の設定刻みが細かく、背もたれはダイヤル式で自由な角度に設定することができた。日本車の背もたれは今でもそうだが、カチッカチッと決められた位置にしかセットできない。

 もちろん欧州車にもこのような方式のモノも存在したが、設定刻みが細かくまたシートそのものの骨格がしっかりとしていた。

 例えばドイツ車とフランス車ではかなり座り心地に違いがある。いわゆるフランス車は表皮が柔らかく身体全体を包み込む感覚。しかしその割にシート全体の剛性が高く安心感がある。

 フランスベッドという高級ベッドがあるけれども、ベッドの体圧分布とシートのそれとは共通点が多いように思われる。

 つまり体圧分布のマネージメントに於いて欧州車は優れているのだ。だからどこも痛くならない。

 面白いのはイタリア車。皮素材を芸術的に縫製するシートは、多少どこかが痛くなっても文句をつけたくなくなる。

 それでも明らかに当時の日本車より優れていて、硬めの座り心地はスポーツドライブには最適だった。

 ただ一つ言えることは、欧州車のシートにはどれもお金がかかっていた。現在でも欧州車はシートに掛ける予算が日本車に比べて大きいように思える。

最近の日本車のシートはこんなに進化している!

日本のコンパクトカーの基準を変えたといわれる新型フィット
座り込んだ瞬間にしっかりとしたシートだとわかるフィットのシート
座り込んだ瞬間にしっかりとしたシートだとわかるフィットのシート
面で支えるMAT構造にしたことにより疲れにくくなっているフィットのシート

 昭和生まれのボク個人の考えとして、日本人は畳文化で生活してきた。そのため正座や胡坐(あぐら)あるいは座椅子という生活が染みついていて、腰かけるという習慣が不足していたのだと思う。

 それがだんだん生活様式が欧米並みになり、日本車も最近シートを見直すようになってきて、シートへの力の入れ方が変わってきた。

 例えば新型フィットでは骨格構造をこれまでの線で支えるSバネ構造から面で支えるMAT構造に変更し、どこをいかにたわませるのかをマネージメントしている。

 さらにクッション厚も増やしている(前後とも)。シートが良ければ多少サスペンションを硬くしても乗り心地は損なわれず、そのぶんスポーティーで回頭性の高いハンドリングが可能にもなるのだ。

 またその逆でサスペンションをスムーズに動くセットとし、シートをしっかりとさせてドライビングを担保する。

 カローラスポーツのG”Z”には新設計のスポーツシートが採用されるが、まさにこのタイプだ。

走りのよさに定評のあるカローラスポーツ
走りのよさに定評のあるカローラスポーツ
カローラスポーツG”Z”に標準装備されるシートはヘッドレスト一体型のスポーツシートでサイドサポート性も高くしっかりとした作り。運転席は6ウェイマニュアル(前後スライド+リクライニング+シート上下アジャスター)調整式

 さらにシートにかなり力を入れているのがマツダだ。マツダ3、CX-30ではシートバックの形状で理想的な背骨のSカーブを維持し、骨盤から大腿骨を支える座面の体圧分布、そして座面先端の角度微調整などこれまでの日本車ではアプローチしなかったほどの改善を行っている。

走りの評価が高いマツダCX-30
走りの評価が高いマツダCX-30
松田氏が高く評価するCX-30のシート
松田氏が高く評価するCX-30のシート
マツダのシート作りはドライバーが着座した際に、骨盤から上が歩行時と同じ姿勢になるよう、シートクッションの形状を作り込んだ。具体的には、骨盤を立て、脊椎が自然なS字を描くような姿勢である
マツダのシート作りはドライバーが着座した際に、骨盤から上が歩行時と同じ姿勢になるよう、シートクッションの形状を作り込んだ。具体的には、骨盤を立て、脊椎が自然なS字を描くような姿勢である

 クルマ作りは総合組立産業と呼ばれているように、構成するパーツの多くをサプライヤーが開発製造する。

 シートも同じくシート屋さんとボクたちが呼ぶサプライヤーの手によって製造される。シート性能のオファーはもちろんメーカーが行い、開発は共同なのだが、そこには予算という壁がある。

 ここ最近の日本車のシートを見ていると、進化の具合からかなりの予算を割くようになってきたのだと感じている。

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