1990年代、若者向けスポーツクーペとして人気を集めたセリカ。その陰で、同じプラットフォームを使いながら「上質さ」と「エレガンス」を追求した兄弟車が存在した。それがトヨタ・カレンだ。180PSエンジンや4WSも設定された個性派クーペの歴史を振り返る。
文:佐々木 亘/画像:トヨタ
【画像ギャラリー】今見てもカッコいい!! 90年代トヨタクーペの隠れた名作だった!! カレンのデザインを写真でチェック(9枚)画像ギャラリーセリカの兄弟車として生まれた一台
カレンの出自は明快である。北米市場限定で展開されていたST200系セリカのノッチバッククーペをベースに、フロントデザインを変更して仕立てたのがカレンだった。セリカが3ドアハッチバックのスポーティな顔つきを持つのに対し、カレンは3ナンバーのワイドサイズの2ドアボディに、よりエレガントな表情を与えられている。
「ミディアムクラスのスペシャリティクーペ」という位置づけそのものが、セリカとの差別化を強く意識したものだったことを物語っているのだ。1994年1月26日の発売にあたっては、俳優の永瀬正敏を起用したCMで「そのクルマはカレンです。」というキャッチコピーが展開され、走りの速さよりも雰囲気や個性を訴求する戦略がとられた。
当時のトヨタ系列店は、それぞれ異なる客層に向けたラインアップを展開していたことを知っていてほしい。スポーティな若者層をターゲットとしたカローラ店のセリカに対し、上級志向のビスタ店は同じプラットフォームを使いながら、もう少し落ち着いた大人の感性に応えるクーペを求めていた。
カレンはまさにその要請に応える存在であり、同じ機構を共有しながら表情だけでまったく異なる顧客像を描き出すという、当時の多店舗展開ならではの商品戦略の産物だったといえる。
走りと環境のあいだを取り三つの顔を持つ一台
メカニズムの面では、カレンは単一のキャラクターに収まらない多面性を持っていた。STシリーズで展開されたグレード群は、それぞれに異なる性格を与えられている。ベーシックなFS(後にTS)には、基本性能を抑えつつ実用性と経済性を重視したハイメカツインカムの3S-FE型エンジンが搭載され、日常使いに適した穏やかな走りを実現した。
一方、走行性能にこだわるユーザー向けのZSには、スポーツツインカムの3S-GE型が搭載され、最高出力は2.0リットルながら180PSに達している。
さらにXSグレードには4WS(4輪操舵)仕様の「XSツーリングセレクション」が用意され、ZSにはスーパーストラットサスペンションを採用した「ZSスポーツセレクション」も設定されるなど、足回りのバリエーションも豊富だった。
スポーツABSの搭載や、トランスミッションに4速ATと5速マニュアルの双方が用意されていた点も、幅広い層に向けた懐の深さを感じさせる。
一台のクーペでありながら、ここまで性格の異なるグレードを並べる構成は、当時のクーペ市場の競争の激しさを反映してもいるのだろう。
穏やかに乗りたい層にはFSやTSの実用的な味わいを、走りを求める層にはZSの本格的なスポーツ性能を、そして個性を求める層には4WSという当時まだ珍しかった機構を、それぞれ用意することで、一つの車名のもとに複数の市場ニーズを取り込もうとしていたのである。
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