2026年6月3日、日産はチェリー(奇瑞汽車)インターナショナルUKと、英国サンダーランド工場で同社向け乗用車の委託生産を検討するための覚書を締結したと発表しました。
プレスリリースには「サンダーランド工場におけるチェリー車生産を検討」という見出しがあり、また昨今日産が「テラノ」や「プリメーラ」など、往年の名車の名を復活させていることもあって、1970年代に日本国内で販売されていた日産「チェリー」の復活か!?? と勘違いしてしまいましたが、今回のチェリーは、中国メーカー「チェリー(Chery、奇瑞汽車)」のこと。「日産が中国メーカー車をつくる」というニュースであり、日産の生産能力の余力を活用することを検討する取り組みです。
ただこのニュース、自動車メーカーの新たな工場戦略を感じさせるニュースでもありました。
文:吉川賢一/写真:NISSAN、奇瑞汽車
【画像ギャラリー】日産欧州戦略の立役者! サンダーランド工場が育てた「キャシュカイ」の現行モデル(14枚)画像ギャラリー「チェリー復活!?」と思ったら、中国メーカーだった
日産が英国に構えるサンダーランド工場は、同社の欧州唯一の完成車生産工場です。年間約60万台規模という欧州有数の生産能力を持つ工場ですが、英国メディア(フィナンシャルタイムズ)の報道によると、英国自動車工業会(SMMT:Society of Motor Manufacturers and Traders)が公表したサンダーランド工場の2025年の生産実績は約27万台と、稼働率は半分程度にとどまっており、余力がある状況が続いていました。
その余力を生かして他メーカーの乗用車製造を受け入れるというのが今回の取り組み。工場の稼働率向上や雇用の維持が狙いのひとつとみられます。サンダーランド工場は高い混流生産能力で知られており、こうした柔軟な生産体制も委託生産の検討を後押しした要因のひとつでしょう。チェリー側にとっても、欧州市場で現地生産比率を高められるメリットは小さくありません。
「中国メーカー車を作るほど経営環境が厳しいのか」や、「身売りの前兆では」と受け止める声も一部にはあるようですが、欧州では電動化や市場環境の変化を背景に、多くのメーカーが工場の統廃合や生産体制の見直しを進めています。
また、工場を遊休させるよりも、生産能力を収益へ結び付けるほうが経営的にも合理的です。今回のニュースは、「サンダーランド工場という”資産”をどう活用するか」という、新たな工場戦略として捉えるべきだと筆者は考えます。
サンダーランド工場が生産受託に踏み出す理由
サンダーランド工場は1986年の稼働開始以来、欧州における日産の主力工場として数多くのモデルを送り出してきました。マイクラやプリメーラ、近年ではキャシュカイやジューク、リーフなどを生産し、2023年には累計生産台数1100万台を達成。(先ほども少し触れましたが)高い品質と効率的な混流生産で知られる、日産を代表する工場です。
実は、複数メーカーの車両を同じ工場で生産すること自体は、世界では決して珍しいことではありません。代表例が、オーストリアの完成車受託生産会社「マグナシュタイア(Magna Steyr)」です。
同社は、自社ブランドのクルマを持たず、BMWやメルセデス・ベンツ、ジャガー、トヨタなど、多くのメーカーから完成車の生産を受託しています。トヨタGRスープラとBMW Z4を生産していることでも知られています。
工場を維持するには、莫大な設備投資と熟練した人財(日産では「人材」を「人財」と表します)が欠かせません。かつて日産が経営不振に陥った際には、生産調整でラインが止まったことで、従業員が工場敷地の草刈りなどをして時間を過ごしたという話もありますが、設備や人財が十分に活用されない状態は、それだけで大きな損失を意味します。
もちろん、日産は完成車メーカーであり、自社ブランドをもたないマグナシュタイアとは立ち位置が違いますが、工場の生産能力を収益に結び付けることは、収益力の立て直しが課題となっている現在の日産にとって理にかなった判断だと筆者は考えます。


















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