トヨタの自動運転は『AI任せ』じゃない!! 2028年から普及車へ導入するトヨタ流『E2E+ガードレール』の正体

 クルマが単体のプロダクトから、ネットワークにつながった社会インフラの一部へと性格を変えつつある以上、技術単体の性能競争だけではすまない時代に入っているということだろう。

「人を包み込む安全」――2019年からの一貫した思想

 今回明らかになった自動運転技術における「ガードレール」という発想は、トヨタにとって唐突なアイデアではない。系譜をたどると、2019年1月に発表された「Guardian(ガーディアン)」という安全思想に行き着く。これは航空機のフライト・エンベロープ保護――パイロットの操作が機体の安全な飛行範囲を逸脱しそうになった際、システムが介入して守るという考え方――に着想を得たもので、運転を安全の境界線で包み込むという発想だった。

 続いて2021年4月、トヨタは「Mobility Teammate Concept」に基づく「Advanced Drive」を発表する。ここで強調されたのは、人とクルマが対話し、互いに歩み寄りながら協調するという思想だ。

 クルマは単なる移動の道具ではなく、「運転を支える相棒」であるべきだという哲学が根底にあった。ハンドルを完全に奪い取るのでも、逆に人間任せで放置するのでもない。「一緒に運転する」という、よくも悪くも人間くさい距離感を大切にしてきたのがトヨタらしさだったと言えるだろう。

 そして今回の「E2E+ガードレール」構想である。AIの能力を存分に引き出しながら、その外側に安全の境界線を置くという発想は、Guardianの「包み込む安全」とAdvanced Driveの「支える相棒」という二つの思想を、AI時代の技術に合わせて統合し直したもの、と捉えることができる。少なくとも思想の一貫性という点では、行き当たりばったりの継ぎ接ぎではなく、7年越しの積み重ねの上に立っている。

 もっとも、クルマ単体で防ぎきれない事故――死角からの急な飛び出しや、見えないカーブの先にある渋滞末尾への追突など――は依然として残る。トヨタが「ヒト・クルマ・インフラ」の三位一体での補完を掲げているのも、クルマだけで完結する安全には限界があるという認識の表れだろう。

残された問い――ガードレールは何を、どこまで上書きするのか

 E2E+ガードレールという構図は、古い技術を捨てきれない妥協とは思えない。複雑な交通処理という「能力」はAIに担わせ、安全の境界と追跡可能性という「保証」は別原理に担わせる、いわば役割分担による「止揚」と読むとしっくりくる。人が定義した中間表現やルールだけでは扱いきれない現実の交通に対応する柔軟性を得ながら、AI任せにはしないという歯止めを両立させようとする試みだ。

 ただし、これで自動運転技術の安全問題の方向性が定まった、と考えるのは早計だろう。

 この発想と技術が普及していくと、「品質保証のあり方」自体が変わらざるを得ない点も見逃せない。従来のルールベースのシステムでは、あらかじめ定めた要求仕様や条件に対して、狙った通りに動くかをひとつひとつ検証することが基本だった。

 一方、学習ベースのAIは、開発段階で大量の走行データから判断に必要な特徴や挙動を獲得するため、個々の挙動を事前にすべて条件分岐として書ききることはできない。安全上の制約や達成すべき性能を仕様化することはできても、「何を、どの範囲まで試せば合格とするか」という検証の物差しを作り直す必要がある。

 この課題に対しては、電気・電子システムの故障を扱う機能安全規格「ISO 26262」に加え、故障がなくても認識性能や仕様の不足によって生じ得る危険を扱う「SOTIF(ISO 21448)」、さらにAIを使った車載システムの安全性を扱う「ISO/PAS 8800:2024」など、複数の枠組みを組み合わせた安全保証が検討されている。ざっくり言えば、業界全体が、AIを載せたクルマをどう検証すればよいのか、答えを模索している真っ只中だということだ。

 トヨタのガードレール構想も、こうした新しい品質保証の枠組みと足並みをそろえながら磨かれていくことになるだろう。

 L2++で運転責任を負うのは、あくまでドライバーである。しかし、衝突が迫った場面の制御判断はミリ秒単位で行われるため、その都度人間の判断を待つことはできない。技術上の核心は、E2Eが出した走行軌跡や操作指令を、ルールベースのガードレールがどの条件で許可し、制限し、あるいは上書きするかにある。

 たとえば、AIが咄嗟のハンドル操作で危険を回避しようとしたとき、その操作が安全境界の内側にあるか外側なのかを、「ガードレール」はどう判定するのか。基準が緩すぎれば安全装置にならず、厳しすぎればAIが学んだ柔軟な対応力を殺してしまう。これは二つの独立したドライバーがハンドルを奪い合う話ではなく、AIの出力をどの安全制約の中で採用するかという設計・検証の問題である。ここにこそ、トヨタの技術者たちの本当の腕の見せどころがあるはずだ。

トヨタの「AI+ガードレール」構想の要点と課題。登場が楽しみです
トヨタの「AI+ガードレール」構想の要点と課題。登場が楽しみです

 現時点でトヨタは、この核心部分の詳細を明らかにしていない。2028年の普及車種への導入に向けて、この問いにどう答えを出してくるのか。「AIに運転を任せても、安全までAIだけに任せない」という一見シンプルな一文の裏には、技術と哲学、そして規格や法制度までも巻き込んだ、簡単には答えの出ない宿題が横たわっている。

 技術思想としての一貫性は評価できる。そして、その真価を判断するには、ガードレールの介入条件や検証方法、ドライバーとの責任分担など、実装の詳細が明らかになるのを待つ必要がある。

 クルマ好きとしては、この「相棒」がどんな性格に育っていくのか、これからも注視していきたい。

【参考記事】カローラ/ヤリス級にも“自動運転時代”到来!? トヨタが2028年からAI運転支援を普及車へ宣言

【画像ギャラリー】トヨタの自動運転は『AI任せ』じゃない!! 2028年から普及車へ導入するトヨタ流『E2E+ガードレール』の正体(4枚)画像ギャラリー

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