軽スーパーハイトワゴンの人気車、スズキ スペーシア。現行型の助手席前には、弁当まで置ける巨大なオープントレーが備わる。実はこの装備、消費税率の変更とコロナ禍で広がった“車内で食べる”習慣から生まれたものだった。身近な収納に隠された開発秘話を追う。
文/写真:ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】クルマ旅でのご当地グルメも困らない!! スペーシアの充実すぎな室内をじっくりチェック!!(10枚)画像ギャラリー軽減税率で「店内」から「車内」へ
現行スペーシアのインパネを眺めると、助手席前に大きく広がる「ビッグオープントレー」が目に留まる。スマートフォンや財布を置くための小さなポケットではない。コンビニ弁当やテイクアウトした食事まで置けそうな、横長で奥行きのあるスペースだ。
先代スペーシアには、この場所にフタ付きの「インパネアッパーボックス」が設けられていた。中身を隠して収納できるため、これはこれで便利だったはずだ。それを現行型では、あえて開放型の巨大トレーへ変更している。
その背景には、人々の食事スタイルの変化があった。
2019年10月、消費税率が8%から10%へ引き上げられると同時に、飲食料品を対象とした軽減税率制度が始まった。購入した食品を店内で食べれば税率10%、持ち帰れば8%となり、コンビニなどで買った食事を店内ではなく、駐車場に停めたクルマへ持ち帰って食べる人が目立つようになった。
スペーシアの開発責任者を務めた鈴木猛介氏によれば、こうした様子を見て「スペーシアには車内で食事を置く場所がない」という課題が浮かび上がったという。
さらに、その直後にはコロナ禍が到来する。人との接触を避けるため、飲食店での食事を控え、テイクアウトした料理を車内で食べる機会が急増した。クルマが単なる移動手段ではなく、食事や休憩をするための小さな個室として使われるようになったのだ。
そこで開発陣は、フタ付き収納をそのまま継承するのではなく、「今回はトレーにしよう」と判断。しかも、ただの小物置きでは役に立たない。実際に大きな弁当を用意して検証し、十分に置けるサイズまでトレーを拡大したという。
ビッグオープントレーは、デザイナーの思いつきで生まれた装飾ではなかった。消費税とコロナ禍によって変わった生活を観察し、それをクルマへ反映した装備だったのである。
収納を減らしたようで使い勝手はむしろ向上
フタ付きのボックスをオープントレーへ変えると、収納力が落ちたようにも思える。しかし現行スペーシアでは、その下に助手席インパネボックスを用意。さらに一般的なグローブボックスも備えており、見せたくない小物や車検証類をしまう場所はきちんと残されている。
つまり、「頻繁に使う物はすぐ取れる場所へ、しまっておきたい物はボックスへ」という役割分担を明確にしたわけだ。
助手席前のビッグオープントレーには、弁当だけでなく、財布やポーチ、ウェットティッシュ、子どものおもちゃなども置きやすい。助手席側にはドリンクホルダーやUSB電源ソケットも用意されるため、駐車中なら食事をしながらスマートフォンを充電するといった使い方もできる。
標準仕様のスペーシアでは、トレー部分に「パイル添加樹脂」を採用しているのも興味深い。樹脂の中に繊維を加えることで、硬い樹脂でありながら、見た目には布のような柔らかさや温かみを感じさせる素材だ。
ただし、これは滑り止めを狙った素材ではないという。走行中にトレーへ荷物を置きっぱなしにすれば、急ブレーキやカーブで動く可能性がある。あくまで停車中のテーブル的な使い方や、すぐに取り出したい小物の一時置き場と考えるのがよさそうだ。
現行スペーシアには、助手席トレー以外にも運転席オープントレー、前後席のドリンクホルダー、後席パーソナルテーブル、助手席シートアンダーボックスなど、多数の収納が用意されている。だが、数を増やすだけでなく、生活の変化から必要な形を導き出している点にスズキらしさがある。
わずか数%の税率差と、突然訪れたコロナ禍。それが一台のクルマのインパネを造り変えたと考えると面白い。スペーシアが大ヒット軽となった理由は広さや燃費だけではない。ユーザーがクルマの中で何をしているのかを観察し、日常の小さな不満を形にする。その細やかさも、スペーシアが家族に選ばれる理由なのだろう。
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