トヨタは2026年に入り、ダイムラートラック、ボルボ・グループ、スカニア、IVECOという欧州を代表する大型商用車メーカーとの間に燃料電池(FC)関連の協業を立て続けに発表した。なぜ欧州メーカーは、なぜトヨタの燃料電池を選ぶのか?
文:ベストカーWeb編集部 写真:ベストカーWeb編集部、トヨタ、スカニア、ボルボ、ダイムラー
【画像ギャラリー】世界のトラックがトヨタの燃料電池にアツイ視線!? 商用車展示会(IAA)での展示を大公開!!(7枚)画像ギャラリースカニアには第3世代FCを40台分供給!
2026年9月7日、トヨタはスウェーデンの大型トラック大手スカニアとの協業を発表した。実際の物流現場へトラックを投入して性能を確かめる、本格的な実証プロジェクトである。
スカニアの「Pilot Partner Program」に参加する大型車40台へ、トヨタの最新となる第3世代燃料電池システムを供給。選定された顧客が実際の物流業務で使用し、技術性能はもちろん、運用効率やTCO(総保有コスト)までチェックするという。
搭載されるトヨタの第3世代FCシステムは、コンパクトながら最高出力300kWを実現。長距離走行、高い稼働率、高負荷という大型トラックならではの厳しい使われ方を想定している。スカニア初の水素燃料電池電気トラックは、2027年第1四半期から走行を始める予定だ。
大型トラックは乗用車とは事情が違う。巨大なバッテリーを搭載すれば航続距離は延ばせるが、そのぶん車両重量が増え、積載できる荷物が減ってしまう。充電時間も物流事業者にとっては直接コストになる。
その点、水素FCなら長距離、高稼働率という商用車の使われ方と相性がいい。スカニアとの実証は、FCトラックが本当に「商売になるのか」を確かめる重要なステップとなる。
IVECOの次世代FCトラックもトヨタ製300kWシステム!
そして9月11日には、イタリアを本拠とするIVECOとの協業も発表された。
舞台となるのはEUが支援するHorizon Europeの「EMPOWER」プロジェクトだ。次世代大型FCEVの開発にあたり、トヨタが燃料電池システムを供給し、IVECOが車両開発、システム統合、検証を担当する。
新型「IVECO S-eWay Fuel Cell」には、こちらもトヨタの新型300kW燃料電池システムを搭載する。
注目すべきはそのスペックだ。従来世代に対して航続距離を900km超へ延長。耐久性は2万5000稼働時間超まで引き上げるという。さらに車両重量を抑えるとともにエネルギーマネジメントを改善し、必要となるバッテリー容量は従来世代のおよそ半分に削減する。
要するに燃料電池をただ積んだ実験車ではなく、運送会社が毎日使うことを前提に、航続距離、積載性、耐久性、効率を徹底的に磨くわけだ。トヨタとしてもアルプスを越えて往来する厳しい実運用条件のもと、イベコの大型トラックから
データが取れることは、大きな成果だ。運用は2026年第4四半期に始まり、公道試験は2027年上期に開始される計画となっている。
ダイムラー&ボルボとは燃料電池を「一緒に作る」段階へ!
そもそもトヨタと欧州トラックメーカーとの親密な関係が大きなニュースとなったのが、2026年3月31日に発表されたダイムラートラック、ボルボ・グループ、トヨタによる協業だ。
ダイムラートラックとボルボ・グループが燃料電池開発のために設立した「cellcentric(セルセントリック)」に、トヨタが参画することで基本合意した。
これは単純な「トヨタから燃料電池を買います」という話ではない。セルセントリックを大型商用車向け燃料電池システムの開発、生産、販売を担う中核拠点とし、トヨタとセルセントリックが、燃料電池の心臓部であるセルの開発・生産から、周辺の構造設計や制御まで一体となって取り組む構想だ。
ダイムラートラックとボルボが持つ大型商用車の知見に、トヨタが長年培ってきたFCセルの開発・生産技術を組み合わせる。
つまりこれは、トヨタのFC技術が「日本車のための技術」から、世界の大型商用車を支える共通基盤へ進化しようとしている、と見ることもできる。
トヨタがFCシステムサプライヤーとなり、脱炭素化に貢献!
一連の動きを見ると、トヨタの水素戦略が以前とはかなり違って見えてくる。
トヨタがFCトラックを大量に作って世界中へ売るだけではなく、世界の大型商用車メーカーへ燃料電池システムを供給し、場合によっては共同で開発・生産まで行う。いわば「FCシステムのサプライヤー」としての役割を本格化させようとしているのだ。
しかも相手はダイムラートラック、ボルボ、スカニア、IVECO。欧州大型トラック市場の超大物ばかりである。トヨタが30年以上にわたって積み重ねてきた燃料電池技術が、ようやく大きな市場をつかもうとしているようにも見える。
もちろん水素には大きな課題もある。車両だけ普及しても水素ステーションがなければ走れないし、製造、輸送、価格を含めた水素そのもののサプライチェーン整備も欠かせない。
だからこそ今回の各プロジェクトでは、単なる車両開発だけでなく、実際の物流事業者を巻き込んだ運行やインフラまで含めて検証しようとしている。
BEVかFCか――という単純な勝ち負けではない。都市配送にはBEV、長距離・高負荷輸送にはFC、といった適材適所が今後明確になっていくはずだ。
2014年に発売されたミライの開発から始まったトヨタの燃料電池技術。その本当の勝負の舞台は、実は乗用車ではなく、100万km以上走り続ける巨大なトラックだったのかもしれない。
2027年、トヨタ製FCシステムを積んだ欧州の大型トラックが次々と公道へ走り出す。その光景は、水素社会が「実験」から「物流ビジネス」へと移る大きな転換点になりそうだ。
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