■タイでは存在する廉価グレード
新型キックス発表の舞台となったタイでは、上級グレードの「VL」に対して16万バーツ(約55万円)も低い廉価グレードの「S」が存在する。
もちろん豪華装備ははぎとられ、シンプルすぎて、パワートレイン以外は、魅力的とは言い難いグレードではあるが、もし、日本市場にも「S」グレード相当が存在すれば、約232万円と、車両価格は大幅に抑えられたはずだ。
それをあえて行わなかったのには、こちらも5月に発表された事業構造改革計画で明かされた「持続的な成長に向けた新しいロードマップ」で示されている「選択と集中」にあると思われる。
「コアマーケット・コアモデル・コアテクノロジー」に集中し、日本、中国、北米において、台数よりも持続可能な成長を実現する戦略を再設定した日産としては、タイでは廉価なグレードを出していても、ここ日本ではキックスというクルマの魅力を充分に発揮させるため、価格と一緒に魅力も削ぐような下級グレードを、あえて作らなかったのではないだろうか。
魅力的な技術アイテムを初めから導入し、1グレードのフルオプション状態のようなキックスを見ると、日産のそのような考えが、見え隠れする。
求めやすいエントリーグレードがない弊害は?
しかし当然、車両価格は、クルマの購入動機に強く紐づいてくる。「S(おそらくシンプル)」や「E(おそらくエコノミー)」が付く、比較的廉価なエントリーグレードは、昔からどのクルマでも設定されている。
そこには「このクルマには手が届く安いグレードもある」ということを、ユーザーへ認知してもらい、新車購入のハードルをぐっと下げる狙いがある。
先日登場したハリアーにも、ガソリン2WDの「S」は税込299万円と、とても考えられない低価格で用意されている(カスタム用途や、レンタカー用途など、よほどの事情がない限り、そのまま購入する一般ユーザーは少ないだろうが)。
カタログ燃費にしても同じだが、数字が持つ力は強い。数百万円もするクルマで、わずか1万円の違いが、勝敗(成約か否か)を分けることもある。
新型キックスには、こうした廉価グレードがないことで、どうしても割高に感じてしまったユーザーがいるのは事実だ。
せめて、税込250万円(※ヴェゼルハイブリッドのエントリーグレード「Hybrid HONDA SENSING」の価格)を切るグレードが用意されていれば、心動かされるユーザーがもっと増えるかもしれない、と、少し残念に思う。
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