■ジャーナリストが感じた初代と現行型の共通点とは?
今でも特に人気が高いのは、1997年に発売された初代シビックタイプRのEK9型だ。
エンジンは直列4気筒1.6LのVTECで、排気量を小さく抑えながら、最高出力の185馬力を8200回転で発揮した。高回転指向のハイチューンエンジンだから、速く走らせるには相応のテクニックも必要で、マニアックな魅力もあった。
EK9型は車両重量が最も軽い仕様であれば1040kgに収まり、全長も4180mmと短いために運転感覚が軽快だった。
そのいっぽうでホイールベース(前輪と後輪の間隔)はシビックセダンと共通化されて2620mmと長いから、下りカーブでブレーキングを強いられたような時でも後輪の接地性を失いにくい。
高性能エンジンを搭載しながら、走行安定性が動力性能を上まわる理想の軽量スポーツモデルであった。
EK9の再来を願うユーザーには、2Lターボを搭載する今日のシビックタイプRは、違和感が伴うかも知れない。現行型は最高出力が320馬力でEK9型の1.7倍、最大トルクは40.8kgmで2.5倍、価格は450万360円だから消費税率の違いを補正しても2倍以上に達する(編註:初代は199万8000円)。
シビックタイプRが、手が届かないモンスターマシンに成長したかのように思わせる。ところが実際に運転すると、20年の時を隔てて現行型とEK9型には共通性があることに気付く。
それは走行安定性が動力性能を上まわる安心感だ。現行型の加速力は大幅に強化されたが、コーナーの出口に向けてアクセルペダルを踏み込んだ時など、前輪が暴れて進路を乱される心配がない。
最大トルクが40kg-mを超える前輪駆動車は、クリーンディーゼルターボを除くと海外市場を含めてほとんど存在せず、一般的には4WDを採用する。それなのにシビックタイプRは、前輪駆動ながら高いトルクを路面へ確実に伝える。
危険を回避する時の安定性も高い。下りコーナーでのブレーキング、あるいはカーブを曲がっている最中にアクセルペダルを一気に戻す、ハンドルを切り込みながらアクセルペダルを踏み込むといった無理な操作をしても、進路をほとんど乱さない。
最も重視しているのは後輪の接地性だが、前輪のグリップ力も高く旋回軌跡を拡大させにくい。このシビックタイプRの走りは、今日の前輪駆動車では最高峰といえるだろう。
その背景にあるのは、ボディとサスペンションの取り付け剛性を高め、いかなる状況でも足まわりが正確に作動することだ。
4輪のブレーキを独立制御して車両の向きを積極的にコントロールするアジャイルハンドリングアシストなどの効果もあるが、基本性能を高めたからこそ、これらの制御も優れた効果を発揮できる。
そして足まわりが常に正確に作動するから、乗り心地も良好だ。シビックタイプRにはショックアブソーバーの減衰力やパワーステアリングのセッティングをコンフォート/スポーツ/+Rに切り替えるドライビングモードが備わり、コンフォートを選ぶと文字通り快適な乗り心地が得られる。
足まわりが柔軟に伸縮してタイヤが路上を細かく跳ねる動きを抑え、少し硬めではあるが重厚感を伴う。20インチ(245/30ZR20)のタイヤサイズからは想像できないほど、乗り心地をしなやかに仕上げた。
■参加者も実感したエンジンのよさと乗り心地
今回試乗会に参加したユーザーの皆さんも、ターボを装着したエンジンによる高い動力性能と、快適な乗り心地の両立に感心されていた。ターボの装着に伴う扱いにくさもなく、自然吸気エンジンのように運転できるのが魅力だという。
特に乗り心地が快適になるために、幅広い用途に使えるメリットを指摘する声が多かった。全幅は1875mmとワイドながら、前方視界が優れているから実際に運転するとさほど大柄には感じないという。そのために街乗りでも不満が生じることはない。
その一方で動力性能に余裕があるから、サーキット走行にも対応できる。スポーツモデルとしての走行性能を備えながら、乗り心地も快適で取りまわし性もいいという、オールマイティに使えることが新型シビックタイプRの魅力というわけだ。
この運転感覚は、スポーティであると同時に上質だ。現行シビックタイプRはホイールベースを2700mmと長く設定したこともあって後席の足元空間も広く、大人4名がゆったりと乗車できる。
クルマ好きのユーザーが家族でサーキットに出かけ、奥さんと子供を近所の行楽地で遊ばせながら、自分はサーキット走行を楽しむような使い方にも対応できる。
そして動力性能に合わせてブレーキ性能も優れているから、高速走行時に危険を回避する能力も高い。高速道路上で前方にトラブルが発生し、急ブレーキを掛けながらハンドルで障害物を避ける操作も確実に行える。
前述のように乗り心地が快適だから、スポーツ走行だけではなく、長距離を安全に移動するツールとしても使えるだろう。従来のシビックタイプRに比べると幅広いユーザーに適しており、スポーツサルーンの性格も併せ持つ。
若い頃にEK9型のタイプRを運転してスポーツドライブの楽しさに触れたユーザーも、今では立派なベテランドライバーになっていると思う。
その成長に合わせるように、シビックタイプRも進化を重ね、ベテランに相応しい高性能車に熟成された。
ディーラーに配車されるシビックタイプRの試乗車は、今のところ台数が限られるが、実際に運転すると大人のスポーツモデルに仕上がっていることに気付くだろう。
ただしシビックタイプRがグレードアップすると、20年前のEK9型に相当する購入のしやすいスポーツモデルも必要になる。
フィットのようにコンパクトなタイプRがあれば、スポーツドライビングの基礎を学んだ後にシビックタイプRへ代替えするストーリーを築ける。それはドライバーに大きな満足感をもたらし、正しい運転技術の習得にも役立つ。
今の自動車業界には若いクルマ好きを育てることが求められ、さまざまなイベントが開催されている。
運転技術や予算に応じて選べるスポーツモデルが用意されると、特に若い人達には親切だろう。シビックタイプRの魅力も、一層際立つと思う。
(渡辺陽一郎)
【ホンダカーズ野崎について】
ホンダカーズ野崎はどうしてもスポーツカー専門店と思われがちだが、実際はお客さんのほとんどがN-BOXな どの普通のホンダ車のオーナーとのこと。
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