■巨大な実験室のような光景
ピットやピット裏のガレージというのは、基本的にレースの時だけ設営される仮設のもの。レースが終われれば解体されて元のガランとした空間に戻る。それが常識だ。
ところが、F1のそれはまるで工場がそのまま移転してきたかのごとく設備や環境が完璧に整備されていて、なおかつ一部には研究所のテストラボ的な機能までが備わっている。
今回はルノーチームでプレス担当をやっているデヴィッドさんに、普通はあんまり見れないガレージ内の秘密の小部屋まで案内していただいたのだが、見えないところでこんな凄いことが行われていたのか!という驚きの連続だった。
たとえば、走行を終わったクルマからオイルのサンプルを抽出して、それを即座にガスクロマトグラフィ分析器にかけて不純物の検出するなんてことをやってる。
現在のF1は年間20レースをエンジン4基で回さなければいけないレギュレーションだから、トラブルの兆候があればできる限り早く発見しなければならない。
デヴィッドさんに「まるで健康診断の血液検査みたいだね」と言ったら、「そのとおり! 人間と同じく病気の兆候は早期発見が一番だよ」という返事。現在のF1はこのレベルが当たり前なのだ。
■最先端のコネクテッドカー
データの処理に関しても、以前はピット内のコンピュータですべて処理していたものが、現在はインターネット経由でヨーロッパの本拠地にデータを送り、より高速なクラウドで処理した結果を受け取るシステム。
しかも、それはレース中のタイヤ温度分析など、完全なリアルタイム性を要求されるクリティカルミッションにも応用されている。
まぁ、考えてみればぼくらがiPhoneのSiriに話しかけている音声認識だって、インターネット経由でクラウドの認識エンジンで処理されて返ってくるわけだから今や特別な技術ではないのだが、あらためてF1が最先端の「コネクテッドカー」であることを再認識するエピソード。
F1はチームラジオとテレメトリーでピットとつながっているだけじゃなく、インターネット経由で走りながらファクトリーともデータ通信を行なっているわけだ。
■それでも「たった一人」のドライビングが左右する
そんな高度なテクノロジーに支えられているF1だが、最終的にステアリングを握るのはひとりの人間であるという点がまたオモシロイところだ。
現代のレーシングドライバーは、速さはもちろんだが決められたオペレーションを正確に実行する能力もきわめて重要とされている。
しかし、それでもドライバーも生身の人間だから熱くなるし、レースは戦いだから予測不可能なことも起こる。
今回ルノーF1チームはタイヤ交換で1ストップ作戦を実行し、エースのニコ・ヒュンケンベルグが40ラップ目までソフトタイヤを引っ張って6位につけていたのだが、残り13ラップで満を侍してスーパーソフトに交換してコースに復帰したところ、予想外のウイングトラブルが発生。DRS用のフラップヒンジが破損してリタイアを余儀なくされてしまった。
これもレースといえばレースなのだが、わずか全長5cmくらいのチタニウムのパーツが壊れただけで、莫大なコストと膨大な人員が関わったプロジェクトが失敗に終わる。
F1の凄さ、面白さ、そして恐ろしさを立て続けに味わった、とっても密度の濃い週末でございました。
【ルノーF1参戦40周年記念動画】
コメント
コメントの使い方