■それぞれの時代においてリードしていた存在
そしてランサーエボリューションの走行安定性を高める四輪制御技術は、三菱車全体の走りを高める役割も果たした。
特に三菱は1982年に発売された初代パジェロを出発点として、4WDを備えたSUVを数多く手掛けている。従ってランサーエボリューションの技術をほかの商品にも反映させやすかった。
最終型のランサーエボリューションXが搭載したS-AWCはアウトランダーにも使われ、切れのいい機敏に曲がる操舵感と優れた安定性を両立させている(この四輪駆動力制御技術は特にアウトランダーPHEVに色濃く引き継がれている)。
三菱車のハンドリングに関するセッティングも、それぞれの時代において、ランサーエボリューションがリードしていた。
例えば1992年に発売された初代ランサーエボリューションでは走行安定性が重視され、峠道では旋回軌跡が拡大するアンダーステア傾向が強い代わりに、後輪の接地性が高かった。この走りは当時の三菱車の多くに当てはまる。
それが1998年発売のランサーエボリューションVになると「曲がりにくい」という批判に応えて、車両の向きを変えやすい設定にした。後輪の接地性が相対的に下がったが、スポーツ性は向上している。
このセッティングも、ほかの三菱車に波及した。ランサーセディアは、2000年の発売時点では後輪の接地性が高い代わりに操舵感が鈍めで、旋回軌跡を拡大させやすかった。
しかし2003年のマイナーチェンジ(車名からセディアが取れてランサーになった)では、よく曲がるセッティングに一変している。後輪の接地性が下がって車両全体のバランスは少し悪化したが、機敏に走る印象に変わった。
■三菱全体のハンドリングを牽引
同様の運転感覚は、コルト(2002年発売)、初代アウトランダー(2005年)、さらに2代目eKワゴン&スポーツ(2006年)にも当てはまり、ランサーエボリューションが三菱車の走りを牽引している。
後年、当時の三菱車のハンドリングと走行安定性が大きく変わった理由を実験担当者に尋ねると、次のような返答であった。
「当時の三菱は(2000年に発覚した)リコール隠しの問題などで売れ行きを下げ、リバイバルに取り組んでいた。そこで運転の楽しいスポーツ性の優れたクルマ作りをテーマに掲げ、ランサーエボリューションを一種のベンチマークとした。
その結果、当時の三菱車すべてがよく曲がるハンドリングを追求した面があった。このほか岡崎のテストコース(岡崎工場に併設されたハンドリング路)が、よく曲がるセッティングに合っていたことも影響した」とのことであった。
ちなみに今の三菱車の運転感覚は、後輪の接地性を十分に確保した上で、自然によく曲がるバランスのいい方向に変わっている。これは安全性と運転の楽しさを両立させる今日の世界的な潮流だが、そこに至る過程では、ランサーエボリューションが三菱車のハンドリングをリードしていたわけだ。
■よきライバルであり続けたスバルWRX STI
そしてランサーエボリューションは、日本のクルマ界全体にもいい影響を与えた。スポーツモデルのライバル車として、常にランサーエボリューションが引き合いに出され、走りの技術進歩をうながしたからだ。
特にスバルインプレッサWRXとランサーエボリューションは、よきライバル同士であり続けた。初代インプレッサは、初代ランサーエボリューションと同じ1992年に発売され、この時点で水平対向4気筒2Lターボにセンターデフ式4WDを組み合わせるWRXとWRXタイプRAを設lけている。
後者はモータースポーツのベース車両として開発され、パワーウインドーや集中ドアロックを省く一方、インタークーラー・ウォータースプレイなどを備えた。
発売時点のインプレッサWRXは、ランサーエボリューションとは対称的で、軽快によく曲がる代わりに後輪の落ち着きが乏しかった。しかし改良を重ねながら安定性を高め、両車ともに競い合いながら走行性能を向上させる間柄になった。
インプレッサWRXのメカニズムは比較的オーソドックスだが、ランサーエンボリューションは1996年に発売されたIVでAYCを採用して、カーブを曲がる時には外側に位置する後輪の駆動力配分を高める設定にした。
車両の向きを積極的に内側へ向けることが可能で、ランサーエボリューションはハイテクの使用に特徴があった。
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