ホンダ「シビック セダン」が2020年8月に生産終了となった。残るのは、「シビックハッチバック」と「シビックタイプR」の2モデルだ。
もともと日本はセダン人気が低迷しているが、ホンダが満を持して投入したシビックながら、なぜ成功できなかったのか? サイズ感、価格面などが要因となったのだろうか? 考察していく。
またディーラーにはまだ在庫があるのか? もう入手は難しいのか? といった情報もお届けしたい。
文/渡辺陽一郎
写真/HONDA、編集部
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■復活からわずか3年でセダンが終了 シビックの不安な先行き
「シビックセダン」がホンダのホームページから削除された。現時点で掲載されているシビックは、「ハッチバック」と、2020年10月に発売される「タイプR」の先取り情報だ。タイプRの価格などはまだ公開されていない。
そしてシビックセダンは国内の寄居工場で生産されたが、ハッチバックとタイプRは、イギリス工場が手掛ける輸入車だ。海外生産車が残り、国内生産車は終了した。

2019年にシビックは、セダン/ハッチバック/タイプRを合計すると、国内で約1万1000台を登録した。最も多いのは6500台のハッチバック、次いで2700台のタイプR、1800台のセダンになる。セダンは1カ月平均で150台程度だから、廃止されることになった。


今後の動向も気になる。シビックのハッチバックとタイプRを生産するイギリス工場が、2021年に閉鎖されるからだ。シビックの生産を国内に移管する話も聞かれるが、前述のとおり以前から国内で造っていたセダンは終了した。
そこでホンダカーズ(ホンダの販売店)で、今後の動向や顧客の反応などを尋ねた。
「シビックセダンは、すでに販売を終了しました。もともと在庫車は少なかったので、今ではほとんど残っていません。そして継続販売されるハッチバックも、納期が長引いています。イギリスから輸入することも関係していますが、短くて3カ月、ボディカラーなどのために長いと6カ月を要します。納期が長い場合、2020年9月下旬に契約しても、納車されるのは2021年3月下旬です」
「そしておそらく2021年中盤には、シビックハッチバックとタイプRを製造するイギリス工場が閉鎖されます。しかしメーカーからその後の予定は聞いていません。シビックの生産を日本に移管するのか、北米から輸入するのか、さらにいえばシビックの国内販売が続くか否かもわからないのです」
シビックが国内販売を終えることも考えられるのか!?
「シビックについては、メーカーの都合で生産と販売が行われています。例えばシビックタイプRは、2020年8月1日から予約を承って発売は10月とされますが、具体的な販売計画は現時点でわかりません。最初のフィットが約20年前に(2001年に)発売され、そのあとのシビックは次第に海外向けになりました」

販売店はメーカーとユーザーの間に位置するので、双方の事情や考え方を的確に捉えていることが多い。シビックのコメントも同様で、ユーザーの気持ちよりも、メーカーの都合が優先されたと述べている。またフィットの登場が、シビックのターニングポイントだったと振り返った。
■復活からわずか3年で終了 シビックセダンはなぜ埋もれたのか
シビックの経緯を見ると、1995年に発売された6代目までは、3ドアハッチバックも用意されていた。ボディサイズと価格も手頃で好調に売れた。
ところが2000年登場の7代目では、3ドアハッチバックが廃止され、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)の長い5ドアハッチバックとセダンに絞られた。この直後の2001年にコンパクトで実用性の優れた買い得な初代フィットが発売され、2002年には国内販売の総合1位(軽自動車を含む)になる。シビックの人気がフィットに移ってしまった。
さらに2005年に発売された8代目シビックは、3ナンバーサイズのセダンのみになったから、売れ行きを大幅に下げた。この後、2010年にシビックは一度国内販売を終えている。


その後、イギリス製のシビックタイプRユーロやタイプRを輸入販売したが、あくまでも一時的な措置で継続性はなかった。
そして、現行型のセダンを寄居工場で製造することが切っかけになって、2017年に現行シビックが改めて国内で復活した。この売れ行きが、再び伸び悩んでいるわけだ。
販売不振の理由は大きく分けて2つある。まずは先に挙げたフィットの存在だ。フィットはコンパクトで運転のしやすいボディを備え、車内は広く走りもいい。ホンダ独自の技術に支えられた実用性と楽しさを兼ね備え、6代目までのシビックと同様の特徴を盛り込んだ。かつてのシビックは、今日のフィットといえるだろう。

ふたつ目の理由は、現行シビックが日本のユーザーに寄り沿わなかったことだ。まず2017年7月の発売タイミングから失敗している。この時期には、大人気のN-BOXが現行型にフルモデルチェンジされ、先代フィット、現行ステップワゴン、現行シャトルも規模の大きなマイナーチェンジを実施した。
新型ラッシュによって販売店が慌ただしい状況で、一度廃止されたシビックを復活させても、埋もれるのはわかり切っていただろう。2018年の前半には、ホンダの新型車はほとんど登場しなかったから、発売を少し遅らせても効果的な販売促進を実施すべきだった。
中高年齢層を中心にシビックの記憶を蘇らせ、再び乗りたい気持ちにさせるようなプロモーションをすれば、その後の動向が違ったかも知れない。開発者は「ウチはそういうところ(販売促進など)が不得意だから…」とコメントした。
発売後も目立った展開は見せていない。開発者は「ハッチバックの6速MT比率が予想以上に高い。タイプRとは違う日常的な運転の楽しさが喜ばれている」と述べたから、その魅力をさらに引き出す特別仕様車などを設定するかと思ったが、そうはならなかった。2017年に発売した後、マイナーチェンジを実施したのは、2020年1月になってからだ。
マイナーチェンジの内容は、外観の小さな変更と、ホンダセンシングの全車標準装着程度になる。安全装備の充実は大切だが、シビックの魅力をさらに際立たせるような変更、あるいは新規グレードの投入などが欲しかった。
今では軽自動車のN-BOXが、国内で販売されるホンダ車の30%以上を占める。軽自動車全体では、50%を超えてしまう。そこにフィットとフリードを加えると、国内で売られるホンダ車の約80%に達するのだ。
今の国内におけるホンダのブランドイメージは「小さな自動車を造るメーカー」だ。シビックのようなクルマは、今の日本では売りにくい商品だから、発売時期を選び、その後も1年にひとつは変化を与えて話題性を維持する必要があった。
手間は要するが、上手に活用すれば、ホンダのブランドイメージを高めることが可能だ。シビックタイプRはその役割を担っている。ただしフィットとシビックタイプRでは距離が開きすぎだから、その間に「6速MT比率が予想以上に高く、タイプRとは違う日常的な運転の楽しさが喜ばれている」ハッチバックを位置付けて魅力的な商品展開を実施すれば、ホンダのイメージリーダーになり得る。
シビックセダンはハッチバックと同じテイストで中途半端だったが、もう少しフォーマルな仕立てにするとよかった。寄居工場製でも、セダンにこそ、イギリスの雰囲気が大切なのだ。フロントマスクなど、基本部分をシビックセダンと共通化するインサイトのような印象に仕上げるとよかった。あるいはセダンは国内生産なのだから、モデューロXの設定は可能だったろう。「どうせ売れない」と諦めていたら、埋もれるだけだ。

シビックは国内市場から一度撤退して、そのあとに販売を再開した商品だから、今後もう一度撤退すると二度目の復活は望めない。残されたハッチバックとタイプRは、モデューロXや魅力的な特別仕様車の追加、商品力を維持できる改良、工夫を凝らした販売促進などにより、大切に売り続けて欲しい。
N-BOXが絶好調に売れる今だからこそ、ユーザー/販売店/メーカーにとって、シビックが大切な存在になっている。