1997年に世界初の量産ハイブリッド車(HV)として売り出されたトヨタ プリウスが、今年に入って販売がやや低調だ。
昨2019年の販売台数は、自動車販売協会連合会の乗用車ブランド通称名別順位で、1~12月までの合計で登録車1位であった。年末の12月も、カローラ、ライズに続いて3位に着けている。
ところが、今年1月に7位となり、2月は9位、その後3月に再び7位となるが、4~5月は9位、6月は11位、7月は14位、8月は13位と、じりじり順位を下げつつある。
その結果、1~6月の合計は9位の3万6630台で、昨年1~6月には1位で7万277台だった実績からすると、半減に近い。プリウスに、何が起きているのだろう。
文:御堀直嗣/写真:TOYOTA
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■販売低下の裏にユーザーの嗜好変化とプリウスαの旧態化

国内外を問わず、市場はSUV(スポーツ多目的車)に人気が集まっている。なかでも、小型SUVが世界的な動向になっており、国内ではダイハツとトヨタが共同で開発した5ナンバー車のロッキーとライズが高い人気を保っている。
また、SUVとは異なるが、トヨタ車では小型ハッチバックのヤリスが急上昇し、カローラも上位3位以内の健闘が続く。
トヨタ車のなかで新たな価値を生み出した車種が人の目を引き、発売から5年を経たプリウスは、車検などで買い替えを考える人にもほぼ行き渡り、誰もが欲しがる車種から距離を置くことになったのだろう。
幅広い用途に使えるプリウスαは、2011年の発売からすでに9年を経ており、まだモデルチェンジをしていない。これはアクアにもいえ、あまりにも長いモデルサイクルに、もはや消費者の選択肢に入りにくくなってきている。

多目的に使えるワゴンやSUVという意味では、ロッキー/ライズのほかに、ヤリスクロスも加わった。古いままのプリウスαをあえて選ぶ意味は薄れている。
トヨタは、マークXや、プレミオ/アリオンなどの車種を廃止して統合を進めているが、一方で、時代に即した新しいクルマの投入を行っている。
それらが5ナンバー車であったり5ナンバーに近い3ナンバー車であったりするなどして、日本の道路事情にあったつくりであるため、消費者の関心はそちらへ目が行きがちだ。
市場における消費者の嗜好の変化と、改めて5ナンバーを意識したクルマが国内では重要であることを示している。
■燃費だけでは売れない? 変革が求められるプリウスの立ち位置

内山田竹志会長が、「ハイブリッドの次はプラグインハイブリッド」と意気込みを語ったプリウスPHVの販売動向が必ずしも思わしくない。ところが、RAV4 PHVは納車が間に合わなくなり受注を中断する事態となった。
RAV4もプリウス同様にグローバルカーだが、小型SUV人気に後押しされるかたちでPHVへの関心を高めたといえる。
技術の良し悪しではなく、車種に対する市場動向に合わせた新技術の投入でなければ拡販が難しいことを示している。そこを見誤ると、販売の伸びないプリウスPHVに対し、売れすぎて受注を中止しなければならないRAV4 PHVのようなねじれが起きてしまう。
技術者たちが魂を込めて開発した新車が、市場動向の見誤りによって売れ行きが左右されてしまっているのである。
こうなると、将来的なプリウスの位置づけも、既存の路線のままでは苦戦を強いられる可能性がある。
SUV人気のなかで、3ナンバーのハッチバック車が今後も売れるかどうかという疑問がある。また、ただ燃費を向上させることが商品力となるのかという疑問もある。
豊田章男社長が繰り返し「100年に一度の変革」と述べているように、クルマという商品を既存の商品企画から考えただけでは、売れない時代になってきていることを自覚しなければならない。
なおかつクルマの価値について、所有から利用へという消費者の嗜好の変化も視野に入れなければ、売れない新車が山積みになる恐れも出てきている。
さらに、米国カリフォルニア州が2035年からエンジン車の販売を止め、排ガスゼロの新車のみになるという話も出てきた。
市場が急速に変化しはじめている。
■次のプリウスに求められる「時代に先駆けた」刷新

そのなかで、プリウスに次があるとするならば、それは車名のとおり「~に先駆けて」いるクルマでなければならない。
電気自動車(EV)であることは最低条件だ。
そのうえで、VtoHなど移動だけでなく、駐車しているときも社会に貢献し、消費者の暮らしを安定させ、安心できる日々を送れるものになっていかなければならないだろう。
外観も、2代目以降の延長線ではもはや存在意義は示せない。現行の4代目のように、輪郭を踏襲しながら顔つきだけ目立たせても、消費者には響かないのである。
フォルクスワーゲンが、ID.3やID.4で見せたように、これまでEVなど見向きもしなかったり、あるいはまだ買うつもりがなかったりする人でも、一度乗ってみたいと思わせるような、時代を反映し未来を期待させる外観が求められる。
加えて、すでにヤリスで採用されているが、回転シートのターンチルトシートを助手席だけでなく運転席にも設定するといった、福祉車両との境界をなくすようなユニバーサルデザインも、障害者対応だけでなく高齢化社会を見据え、取り組むべき課題だ。

そして、自動運転は、障害者や高齢者に移動の自由を広げ、自立を促すことにつながる。そうなれば、所有から利用への転換期においても、存続する意味や価値のある車種になっていく。乗ってみたいと思われれば、共同利用でも選ばれる車種になっていく。
以上の価値は、必ずしも目新しいものではない。しかし、「~に先駆けて」という車名である以上、プリウスは少なくとも時代の最先端でなければならない。単にPHVにしても、それはもはや時代の先端ではない。
カリフォルニア州のZEV規制も、EVの台数割合が年々2%ずつ増やされていく。一方PHEVは、当面認可される車種でしかなく、その割り当て比率が絞られていく。
なおかつ、15年後にはEVのみしか販売できなくなろうとしている。先々しぼんでいくPHVに、誰がお金を払うだろうか。あるいは所有したいと思うだろうか。
幸いなことに、プリウスの急な販売低下は時代をまさしく反映し、トヨタにEVでなければ生き残れないという覚悟をもたらすのではないか。
CASE(コネクテッド/オートノマス=自動運転/シェア/エレクトリック)の取り組みにいよいよ本腰を入れるときである。実際、10年後には大手自動車メーカーといえども必ずしも存続できない時代になると私は見ている。