高速道路SA・PAのEV用急速充電器はなぜ増えない? 背に腹はかえられない切ない事情

■停滞気味のスポット増設 最大の理由は「モトが取れない」から!?

 NEXCO各社も、手をこまねいているわけではない。2020年は海老名SAの増設が実現している。ただ、NEXCO中日本によると、「今のところさらなる増設の予定はない」という。いったいなぜか。

 最大の理由は、「急速充電器を設置してもモトが取れないから」ということに尽きる。

 現在日本全国には、8000カ所近いEV急速充電スポットが存在する。設置数が特に伸びたのは2015年と2016年で、この2年間で2000カ所から7000カ所にまで増えた。しかし近年は設置ペースが落ち、以後の4年間で1000カ所も増えていない。

 EVの充電スポットが設置されている主な場所は、カーディーラー、コンビニ、大型商業施設、宿泊施設、そして道の駅や高速道路のSA・PAである。

 カーディーラーは日産や三菱、ホンダなどEVを販売しているメーカーのもので、これはEVの販売促進が主な目的。そのほかの施設の場合は、顧客サービスの一環として赤字覚悟で設置している。

 役所など公共施設には、現在も無料で急速充電できるスポットもある。無料スポットの存在は、充電設備が基本的にボランティア的であることを示唆している。仮に収益を上げようとしたら、充電料金を大幅に上げる必要があり、EV普及の大いなる阻害要因になってしまう。

 ただ、設置によるイメージアップはあるし、道の駅やSA・PAの場合は、公共施設としての使命もある。それら設置可能施設への設置が飽和状態に近づいた結果、設置数が伸び悩んでいると見ていいだろう。

 収益を生まないEVの急速充電器の設置は、できるだけ数が少ないほうが負担が少なくて済む。全国の大部分の急速充電スポットが、「充電器1基だけ」になるのは当然だ。実際のところ、多くのスポットでは1基だけでも「足りている」と言える。

 ただ、SA・PAは別。途中で充電が必要になるロングドライブでは、必然的にSA・PAの充電スポットに集中する。インターを降りればかなりの充電スポットがあるが、わざわざ降りるのは非常に面倒だし高速料金もかさむし時間もかかる。休日のSAPAの充電スポットの混雑もまた必然なのである。

■高騰するSA・PAへの急速充電器設置費用 国の後押しが必要!

 もうひとつの要因。それは、SA・PAの場合、急速充電器の設置費用が飛び抜けて高いことだ。

 充電器本体の価格は200万円から250万円程度が中心で、性能が同じなら価格も当然同じだが、SA・PAの場合、工事費が非常にかさんでしまう。

 一般社団法人 次世代自動車振興センターの2014年の調査によると、急速充電器1基の設置費用(本体含まず)は、コンビニだと平均400万円だが、SA・PAの場合は1400万円に跳ね上がるという。

 たとえば電気配線。コンビニが130万円で済むところを、SA・PAだと610万円かかっている。SA・PAの場合、高圧電流を流す専用配線を長い距離地下に埋める必要がある。1基から2基に増設する際も、事前に配線が用意されていれば別だが、そうでなければ費用はあまり変わらない。そのほか付帯設備や工事費も、SA・PAの場合ははるかに高くなっている。

 急速充電器の設置に関しては、「次世代自動車充電インフラ整備促進事業」から補助金が出る。SA・PAのような公共のある場所への設置の場合、補助率は3分の2だが、一度に申請できる設置数は「1」。その後の追加は、「充電渋滞の緩和が目的」であることが求められている。つまり、充電渋滞がなければ追加設置しても補助金を申請できない。先を見越して複数台の充電器を設置したら、補助金が受けられず、費用負担が莫大になる。

 NEXCO各社は、一応民間会社。利益を生まない急速充電器の設置を、自らの意思だけで急速に進めるのは無理がある。SA・PAのガソリンスタンドの撤退も進んでいるくらいだ。そんななか、全国のSA・PAに1基ずつでも急速充電器を設置したのだから、よく頑張ったと言うべきか。

 SA・PAの充電渋滞解消のためには、国の全面的な後押しが必要だ。政府がEV化を積極的に推進しようとするならば、SA・PAへの急速充電器の大幅な増設を、ほぼ全額国費による補助金で行うくらいの方針転換が必要だろう。同時に、充電速度の速い大出力モデルへの置き替えも必要だ。

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