ドライバーの嘘をクルマは見抜けるのか 高齢者の事故解明と運転力維持のための方法

ドライバーの嘘をクルマは見抜けるのか 高齢者の事故解明と運転力維持のための方法

 大きなニュースとなっている池袋暴走事故の裁判だが、“上級国民”と揶揄されている旧通産省工業技術院の元院長 飯塚幸三被告(89)が、公判で「ブレーキペダルを踏んだが減速しなかった」と主張した。

 だが、あまり知られていないが、現在発売されている自動車には、「EDR(イベント・データ・レコーダー)」という、詳細なデータを得られる“事故記録装置”が搭載されている。

 この「EDR」とは、どのような機能を果たすものなのか? またこういった事故でよく聞く「ブレーキが壊れていた」という主張は、EDRを解析すれば証明できるのか? CDR(クラッシュ・データ・リトリーバル)アナリストの認定資格をもつ松田秀士氏が詳しく解説していく。

 さらに、高齢者が運転時になぜアクセルとブレーキを踏み間違いやすいのか? その要因と、運転における注意点についても併せて解説していきたい。

文/松田秀士
写真/Bosch、Adobe Stock、編集部

【画像ギャラリー】なぜ高齢者の事故は起きる!? ITARDAなどのデータから読み解く実態と原因


■ブレーキもアクセルも故障!? 人間の記憶は主観的

 燃費と安全性を進化させてきたクルマ。昔のクルマのアクセルは、ワイヤーやリンケージでエンジンに直結してスロットルを開閉していた。しかし現在は、最適な燃焼をコントロールするために電スロ(電子制御スロットル)に置き換えられ、スロットルはドライバーが要求したトルク(アクセルペダル踏み込み量)を電気信号によってコンピューターが判断する。

 もちろんコンピューターは、その時の走行状況に照らし合わせて、技術者がプログラミングしたデータに基づいてスロットルを調整するのだ。ただし、ドライバーがアクセルペダルを踏んでいないのにスロットルを開けることはない。逆に少しでも踏んでいれば状況に応じて調整するのだ。

 例の池袋暴走事故の裁判で加害者の弁護人は「(加害者が)アクセルペダルを踏み続けたことはなく、車の制御システムに何らかの突発的な異常が生じた可能性がある」さらにブレーキを踏んでいたとして無罪を主張。

 つまりブレーキが故障した、と述べている。それでも踏んでいないのに加速し続けたわけだからアクセルも故障したことになる。事故車両は2008年製のトヨタ『プリウス』。事故が起きたのは2019年だから、すでに11年経過している。

 ブレーキは安全上非常に重要な装置だからキチンと法定に基づく車検および定期点検を受けていれば11年使用したからといってそうそう壊れるものではない。ちなみに加害車両は、事故直前の2019年3月に点検を受けていてブレーキにもアクセルにも異常は確認されていない。

 この弁護人の主張根拠は加害者の「ブレーキペダルを踏んだが減速しなかった」「クルマに何らかの異常が起きたと思う」という加害者の記憶に基づくものだ。

 これに対して検察官は「事故当日の記録にも異常が起きた記録・ブレーキペダルを踏み込んだ記録はない」としている。

事故起こした際は動転しており、正確に事故について記憶していることは少ない。そのため、事故後にどうして発生したのかを思い出そうとした場合は、主観的な思い込みなどが入りやすい (kazoka303030@Adobe Stock)
事故起こした際は動転しており、正確に事故について記憶していることは少ない。そのため、事故後にどうして発生したのかを思い出そうとした場合は、主観的な思い込みなどが入りやすい (kazoka303030@Adobe Stock)

次ページは : ■事故をしっかり記録! 客観的データで真実を伝えるEDR

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