ドライバーの嘘をクルマは見抜けるのか 高齢者の事故解明と運転力維持のための方法

■事故をしっかり記録! 客観的データで真実を伝えるEDR

 ではこの検察官が「記録はない」とする根拠はどこにあるのだろうか? それは「EDR(イベント・データ・レコーダー)」なのだ。

 EDRは、ACM(エアバッグ・コントロール・モジュール)内に内蔵されている記録媒体のこと。ACMはエアバッグを展開させるコンピューターのことで、基本的には車両の重心位置付近に搭載されている。

 EDRは、もともとエアバッグが適正に作動したかをモニタリングするための故障診断装置の内容を記録するもので、エアバッグの製造メーカーが装備しているのだ。

写真はエアバッグの展開イメージ。EDRはエアバッグの展開と連動する形でデータが記録される仕組み
写真はエアバッグの展開イメージ。EDRはエアバッグの展開と連動する形でデータが記録される仕組み

 死亡事故をもフォローすることになるので、このモニタリングは重要項目。そこで、この事故記録データを解析して交通安全に利用しようという流れになっている。

 しかし、ACM製造メーカーは多数あり、また車種や年式によっても統一されていない。そこでBOSCH社が独自に解析用のコンピューターを開発し、解析技術者を研修養成している。このコンピューターを「CDR(クラッシュ・データ・リトリーバル)」といい解析技術者をCDRアナリストと呼んでいる。筆者はこのCDRアナリストでもある。

 これまでの事故解析は衝突による車体変形や事故現場状況を基に行っていた。しかし、事故車両の車体変形エネルギーにはそれぞれ差がある。つまり同じ速度で衝突しても、クルマによってその変形具合には差があるということ。当たり前だよね。これでは正確な事故調査はできない。

 これに対して、EDRではΔV(デルタブイ)という加速度変化から得られる最大速度変化を記録している。これによって衝突時の速度が得られ、さらに相手車両の速度も計算できるのだ。ま、これは今回の本題から少しずれてしまうので、このあたりにしておこう。

 EDRが記録する主な項目は、
・エンジン回転数
・車速
・ブレーキペダルの操作状況
・アクセルペダルの操作状況
・ATのシフトポジション
・助手席乗員の有無
・シートベルト着用の有無
etc である。

こちらが事故記録のデモ。グラフは横軸のmsec(ミリ秒)が時間軸で、縦軸がデルタVで表される加速度(速度の変化率)と言ってもサッパリだが、これを読み解くことで多くの事実がわかる
こちらが事故記録のデモ。グラフは横軸のmsec(ミリ秒)が時間軸で、縦軸がデルタVで表される加速度(速度の変化率)と言ってもサッパリだが、これを読み解くことで多くの事実がわかる
EDRは事故発生直前、事故発生時からエアバッグ展開までの“事実”を記録している
EDRは事故発生直前、事故発生時からエアバッグ展開までの“事実”を記録している

 つまり検察官はこのデータを基に「ブレーキを踏み込んだ記録はない」と主張しているのだ。このようなことはドライブレコーダーでは判別できない。逆にEDRは音声も映像も記録しない。

 車両に異常が起きたのであれば、EDRデータを解析することでほとんどの場合判明する。つまり、弁護人と検察官の主張のどちらに信憑性があるかは裁判の場で自ずと明らかになるはずだ。

 ただし、筆者は断罪するためにここに書いているのではない。加害者は高齢者だ。高齢者は思い込みが激しく、いったん主張すると曲げない。筆者の親も高齢者なので、そのあたりをよく理解している。決して罪から逃れようとしているのではない場合もあり得るのだ。

 起きてしまったことはどうしようもない。これが世の無情というもの。司法の判断にゆだねるしかないだろう。

■身体能力が低下する高齢者 運転のために注意すべきポイント

 そこで筆者は「安全運転寿命を延ばすレッスン」(小学館)を2020年出版した。高齢者の事故対策の一環として免許返納があるが、公共交通機関が十分でない地域もあり、またクルマの運転を趣味としている方々への提言として書かせていただいた。その中からブレーキの踏み間違いはなぜ起こるのか? どうすれば予防できるのか? についてここに少し記そう。

 人は高齢化しやがて必ず亡くなる。ある年齢に到達したらいきなり死ぬのではない。事故や病気で亡くなる場合を除いて、衰えやがて死ぬ。事故や病気で亡くなるにせよ衰えは時間経過と正比例だ。これはホルモンの分泌量の低減とも関係がある。

 ホルモン分泌が減ることで気力や体力も落ちる。そして筋肉も落ちる。クルマの運転の中で筆者が重要視しているのが、このホルモン分泌低減によって体幹筋が衰えること。

 体幹筋が衰えると運転姿勢が崩れる。しかし、多くのドライバーはそれまで慣れ親しんだシートポジションで運転している。つまり適正なドラポジ(ドライビングポジション)が得られなくなっているのだ。

 さらに椎間板の衰えは座高も変化させ、アイポジションも変わってしまう。最近のクルマは、衝突安全の立場からダッシュボードの位置が高くなり視認性も悪い。また、カーナビなど集中力を拡散させる装置も増えてきた。

 どうすればよいのか?

 まずシートポジションを再調整しよう。一度合わせたらよいというものではない。日々、微調整して今日の自分に最適なポジションを探す。

 そして体幹筋を鍛えるエクササイズを行おう。おすすめはプランク(フロントブリッジ)、サイドプランクなどなど。ネットで検索してほしい。

こちらがサイドプランク。膝をついた状態で90度曲げることで負荷を下げることができるので、高齢者でも無理なく行うことができる (kazoka303030@Adobe Stock)
こちらがサイドプランク。膝をついた状態で90度曲げることで負荷を下げることができるので、高齢者でも無理なく行うことができる (kazoka303030@Adobe Stock)

 そして普段から踵を床に付けてアクセルとブレーキを踏み替える癖をつけよう。これは自宅の車庫でエンジンを掛けなくても練習できる。運転はゴルフなどと同じスポーツ。練習すれば必ずうまくなる。高齢者の人は今からでも、50代の人は始めておけば確実に運転年齢を延ばせるはずだ。

 クルマを運転する操作の中でいちばん重要なのはブレーキ。ブレーキをきちんと確実に踏めない人は免許返納すべきだ。

【画像ギャラリー】なぜ高齢者の事故は起きる!? ITARDAなどのデータから読み解く実態と原因

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