昨年2020年6月の登場以来、快進撃を続けている、トヨタハリアー。今年に入ってからも、1月の販売台数は、登録車全体の4位(9117台)にランクインするなど、いまだ好調な売れ行きを維持しています。
ハリアーは、前型では、アクセルペダルに吊り下げ式ペダルを採用していましたが、今回のモデルではオルガン式ペダルとなりました。プラットフォームを共有するRAV4も、現行モデルはオルガン式です。
国産車にも広がりつつある、オルガン式ペダル。今回はアクセルペダルの吊り下げ式とオルガン式それぞれの特徴やメリットデメリットについて、そしてどちらが安全なのか、考えていこうと思います。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA、NISSAN、MAZDA、ベス、トカーWEB編集部、写真AC
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宙に浮いている吊り下げ式と、床から生えているオルガン式
文字通り、吊り下げ式ペダルは、上から吊り下がっている形式のペダルこと。ステアリングホイールのシャフトの下あたりを支点として、リンク棒に装着されたペダルを、足裏の上半部で操作するペダルです。
一方のオルガン式ペダルは、ペダルがフロアから生えている形式。ペダルの下端を支点として、フロアに蝶番で固定されており、足裏全体で操作するペダルです。
当然のことながら、宙に浮いている吊り下げペダルを操作するのと、床から生えているオルガン式ペダルを操作するのでは、アクセルペダルを踏む際の操作感に違いがあります。
日本の交通事情に向いている吊り下げ式
吊り下げ式ペダルのメリットは、ブレーキペダルのすぐ横に配置するため、ペダルの踏みかえがしやすく、ストップアンドゴーが多い日本の交通事情に向いている、といえます。
昔から国産車が採用している配置という理由もあり、日本人にとっては馴染みがある、というのもメリットです。軽自動車やコンパクトカー、ミニバンまで、多くの国産車が吊り下げ式ペダルを採用しています。
また、アクセルペダルとエンジンのスロットルが、ワイヤーで繋がれていた時代には、(フロントにエンジンがある一般的なクルマの場合)吊り下げ式は、ペダルの動作機構や、ワイヤーの取り回しをシンプルにできたため、コストが安いというメリットがありました。
アクセルの踏み加減を調節しやすいオルガン式
オルガン式ペダルは、アクセルペダルとブレーキペダルとの位置関係が真横ではないため、右足の踵を付けた状態での踏みかえが多少やりにくい、といった特徴があります。
しかし、吊り下げ式と違い、踏み込む際の足裏の軌跡と、踏み込まれたときのペダルの軌跡は同一の円弧を描きますので、アクセルの微妙な踏み加減を調節しやすく、疲労も少なく済む傾向にあります。
そのため、高速道路等を利用して長距離を移動するような運転環境では、微妙な速度調節ができるオルガン式ペダルのほうが適しているといえます。一定速を維持しやすいため、低燃費走行もしやすいです。
以前は、オルガン式ペダルには、吊り下げ式よりも高コストとなる、というデメリットがありました。そのためオルガン式ペダルには、「高級車の装備」というイメージがありましたが、最近は、アクセルの踏み込み量をセンサーで検出して、電気的にスロットルを駆動させるスロットルバイワイヤー方式が採用されている場合がほとんどです。
その結果、ワイヤー取り回しといったレイアウト上の課題がなくなり、吊り下げ式とのコストの差は、小さくなっています。
しかしながら、現在オルガン式ペダルを採用しているクルマは、メルセデスベンツ(Cクラス以上)やBMW、ポルシェなどのハイクラスの輸入車が多く、国産車でも採用しているクルマはミドルクラス以上のクルマであるケースがほとんどであり、いまでも「高級車を中心に採用されている装備」ではあります。
マツダがオルガン式ペダルを全車で採用するワケ
国産車では採用の少ないオルガン式ペダルですが、日本の自動車メーカーで、全車オルガン式ペダルを採用しているのが、マツダです。
マツダは、オルガン式アクセルペダルについて、
「シートに座って自然に足を前に出した位置にアクセルペダルを配置することで、運転時の疲労を軽減し、とっさのときの踏み間違いも起きにくくなります。」
と、しており、実際に、公益財団法人交通事故総合分析センター(ITARDA)が2017年に行った調査では、アクセラとアテンザ、デミオの販売台数1万台あたりでのペダルの踏み間違いによる死傷事故件数が、旧世代モデルより新世代モデルで86%も減少しているそうです。
先進安全装備や、衝突安全性能の違いなど、他の要素も考慮に入れる必要があるため、オルガン式ペダルだけの効果とはいえませんが、オルガン式のほうが、踏み間違えが起こりにくいであろうことは、なんとなくイメージできるかと思います。
ハリアーが現行型でオルガン式を採用した背景にも、高級感を演出するためだけではなく、踏み間違えにつながる要素をすこしでも排除しよう、というトヨタの狙いがあるのかもしれません。
メリットの多いオルガン式、しかし逆行する流れも…
しかしその一方、かつてはオルガン式を採用していたのに、吊り下げ式へとシフトしているメーカーもあります。フォルクスワーゲンです。量販車のポロやゴルフに限らず、高額車のパサートやアルテオン、そして同じグループの高級ブランドのアウディA3、A4、A6、A8にまで、吊り下げ式にしています。
A6やA8は1000万円強もするクルマですから、コストカットが目的とは思えず、アクセルペダル操作に対するメーカー思想の問題だと考えられます。
また日産車でも、スカイラインはオルガン式ですが、R35型GT-Rは吊り下げ式です。サーキット走行もこなすGT-Rの場合、コーナー手前でのブレーキングから、コーナー出口に向かって加速するときの、ペダル踏み換えにかかる極わずかなタイムロスを削るために吊り下げ型にした、といわれています。
ちなみに、スーパーGTに参戦するGT-R NISMOのレーシングカーの場合だと、アクセルペダルもブレーキペダルもオルガン式です。
NISMOはこの理由について
===(引用開始)===
ペダルの手前(ドライバー側)の下に収められたブレーキマスターシリンダーストッパーとの距離を短くして剛性を上げるため。低重心でシンプルな構造の方が、レースカーはいいのです
NISMO社「GT入門コンテンツ」より
https://www.nismo.co.jp/M_SPORTS/RACE/SUPERGT2005/ABOUT/INTRODUCTION/04.html
===(引用ここまで)===
と、説明しています。
オルガン式が正解とは言い切れない
オルガン式の方が、メリットが多いように思えますが、運転の環境や時代が変われば、「正解」は変わってきます。ACCや自動運転が当たり前になると、右足の置き場確保のために、吊り下げ型が、再び見直されるかもしれません。いまから10年後、ペダルのレイアウトがどのようになっているのか、技術の進歩が非常に楽しみです。