■ゴルフIIIは”我慢”を強いる、カローラは”楽”でいられる
まずゴルフ、というよりゴルフIIIの話である。ゴルフIIIは日本の使用環境、特に都市型の使い方では音がうるさい、ATの出来が悪い、ハンドルが重い、インテリアは質実剛健としか言いようがないなど、弱点をいくらでも挙げられるくらいで、見方によってはひどいクルマともいえる。
しかし高速道路やワインディングロードに行くと、お世辞にも静かとは言えないながら乾いたエンジン音を響かせる。
そしてハンドルに絶大な安心感ある正確なインフォメーションを伝え、ハンドル操作に対し文字どおり1ミリ単位のように忠実にクルマが動いてくれる。とにかく「走りたい!」と思わせてくれるほど運転していて楽しかった。
またよく言われることだが、シートの出来もいいので燃料切れまで走り続けられそうな気になるほどのシロモノだった。当時は「アウトバーンや制限速度100km/hの一般道のある国で生まれたクルマは凄いもんだ」と痛感した。
対するランクスは亡き徳大寺先生がよくトヨタ車のドライブフィールを「クルマを運転しているのを忘れるような」と表現されていたのを思い出す。
すべての操作系が軽く、静かで燃費もいい。さらに各部のクオリティや信頼性&耐久性は高いし、壊れても修理代は安いと、とにかく楽と言えば楽なクルマだった。
この原稿を依頼してくれたベストカーWeb編集部のSさんは、レンタカーなどで現行のカローラフィールダーに乗ると「これでいいじゃん」と思ったという。その意見には筆者も100%同意する。
しかしカローラのよさはクルマ好きにとっては諸刃の剣で、筆者はランクスに乗っている時に常々思っていたことがある。「これに乗っていたらクルマに対する興味、関心がなくなってしまいそう」という恐怖感だ。
現在のゴルフと海外向けまで含めたカローラファミリーとの間には、昔ほどの差はない。お互いの存在が近づきつつも、「ドイツの厳しい使用環境にも耐えるゴルフ」と「世界中の人に快適な移動手段を提供するカローラ」というどちらも明確なポリシーを持っている。
だが、ゴルフのほうがそのポリシーに強さや趣味性を感じてしまうこともあって、カローラには「日本を代表するクルマ」といったイメージが薄いのではないだろうか。
■カローラにはゴルフになるチャンスはなかったのか?
続いてカローラはゴルフになるチャンスはあったのか、という疑問がわいてくる。私の結論は「あった」だと思っている。それはカローラが40周年を迎えた2006年登場の10代目モデルの時だったと思う。
というのも10代目モデルからカローラファミリーは日本向けの5ナンバー車だけでなく、海外向けのオーリスも加わった。
また5ナンバー車はユーザーの高齢化に対応し、セダンのアクシオの初期型はバックモニターを全グレードに標準装備。そしてオーリスはゴルフのような志を持っていた。
当時は2代目プリウスの立場などもあり、ハイブリッドの扱いが難しい事実はあったとは思う。
しかし、もしカローラがハイブリッドモデルをリーズナブルな価格で加えていれば、ガソリン価格が高騰していたことも追い風となって、カローラファミリーがゴルフのような注目を世界中で集めたのではないかという気がする。
今更10年以上前の話をしても仕方ないので前向きに考えていこう。今後のカローラはどうすべきだろうか。
具体的には燃費だけではなく動力性能の向上も含めたハイブリッドなどのパワートレーンの充実、自動ブレーキに代表される安全性の向上、ヨーロッパ車に負けないようなインテリアの質感向上だ。
さらにいえば3ナンバー車と5ナンバー車で最良と感じる速度域を変えるのも考慮に入れるべきで、乗り心地やハンドリングに代表される走りの質の向上、そしてリーズナブルな価格も必要だ。やるべきことは多い。
と書きながらニューヨークモーターショーで発表されたカローラハッチバックを見ると、TNGAコンセプトでパワートレーン、車体は強化された。安全性もマイナーチェンジされたアルファードに採用された、次世代トヨタセーフティセンスが着く可能性もある。
自動ブレーキの性能は世界トップレベル、インテリアもよさそうと、3ナンバーカローラに関してはゴルフに対抗できるクルマになっているようにも思える。
これで5ナンバーカローラの全体的な質も向上すれば、3ナンバーと5ナンバーのカローラでゴルフ包囲網が完成するかもしれない。
さらにゴルフも同クラスの競争が激しくなっていることもあり、昔ほどゴルフに明確なアドバンテージを感じなくなっているというのも事実。
今のトヨタの勢いなら販売台数だけでなくクルマそのものでもカローラがゴルフを負かし、カローラが「日本を代表するクルマ」となる日は意外に近いのかもしれない。
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