■役作りでラウダとグランプリ観戦!?
ラウダを演じたブリュールも本人のアドバイスを貰えたと言う。
「ニキは当時のこと、特に自分が抱いた恐怖心について詳しく語ってくれた。モンツァでレースにカムバックしたとき、パニック障害を起こしてしまったこととかね。こういう彼の経験談は、演じる上でとても役に立った。
彼とのいい思い出は一緒にメキシコGPに行ったこと。ニキの解説つきでレースを楽しむなんで最高の経験だ」
レースファンからすると羨ましい限りである。
一方、ハントを演じたヘムズワースの場合は当人がすでに亡くなっているので、彼を知る人からリサーチを始めたという。
「でも、本当にたくさん関係者がいる上に、彼の人間性に一貫性がないんだよ。こういう話を聞いていたら振り回されるだけだと思い、自分ならではジェームズ・ハントを創り上げたんだ」
映画のエンドクレジットには実際のふたりの写真が流れるのだが、とても似ていることに驚かされる。ラウダも「もしジェームズが生きていたら、クリスの演技に大喜びしていたと思う」と言っているほどだ。
■カメオ出演のF1関係者たちにも注目
もうひとつの見どころであるレースシーンのほうで活躍したのはアリスター・コールドウェル。ハントが所属していたマクラーレンF1チームのディレクターを務めた人で、本作ではテクニカルアドバイザーとして参加。
ピットのクルーやドライバーを演じる役者たちのトレーニングを担当し、リアルな風景を創り上げて行ったという。本編にはピットでタイヤ交換をするシーンが何度かあるのだが、その緊張感はサスペンス映画級。ハラハラがハンパないのは、彼を起用したおかげなのかもしれない。
各レースシーンは、実際に撮影したものもあれば、残されていた記録映像に情報をプラスして創り上げたものもある。重要なラウダの事故が起きるドイツGPのシーンは今回撮影したものと、シチュエーションに合わせ、上手に使い分けている。
また本作には、F1の立役者バーニー・エクレストンがアメリカGPのシーンでカメオ出演している。モーガンとハワードが彼に会ったときは映画に対しては懐疑的だったが、出来上がった作品は大いに気に入り3回も観てくれたという。
もうひとり、カメオ出演しているのはF1レーサーのヨッヘン・マス。ニュルブルクリンクのマルボロ・マクラーレンのドライバーとして本人役で顔を出している。
撮影時、スタッフが記録のために彼に名前を尋ねたところヨッヘン・マスと答えたので「いや、役名ではなくあなたの本名を教えてください」と返されたという笑い話が残っている。
今は亡きニキ・ラウダが深く関わった唯一の映画にして、彼の伝記もの、友情ドラマとしても見応えありの『ラッシュ』。レースファンも映画ファンも大いに満足出来るはずだ。
●解説
資産家の長男ながらレーサーの道を選んだニキ・ラウダと、医師になることを期待されていたが、それを裏切りモータースポーツの世界に足を踏み入れたジェームズ・ハント。
F3のレースで顔を合わせたふたりはライバル心をむき出しにする。「いつかF1で勝負を付けよう!」。その機会は思いのほか早くやってくる。
70年代のファッションやヒットソングをちりばめながら当時の空気感を再現。ラウダの事故が描かれているせいもあってか、危険なスポーツとしてのカーレースが描かれているのも特徴だ。レーサーの死亡率が20パーセントだったという当時の恐ろしさもちゃんと再現されている。
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