多発するペダル踏み間違い事故 操作ミスだけでないAT車の誤作動による危険性

ATの操作ミス? ATの故障で起こる可能性も

先日発生した交通事故では、Pレンジに入れたのにクルマが動き出したというが、ATが誤作動する可能性はあるのだろうか?
先日発生した交通事故では、Pレンジに入れたのにクルマが動き出したというが、ATが誤作動する可能性はあるのだろうか?
運転姿勢を変える挙動。右後方を向く動きでは、高齢者は股関節が硬くなってきているため、足先が無意識に右方向へ移動しやすく、ブレーキと勘違いしアクセルを踏みやすい(ITARDA公表データ)
運転姿勢を変える挙動。右後方を向く動きでは、高齢者は股関節が硬くなってきているため、足先が無意識に右方向へ移動しやすく、ブレーキと勘違いしアクセルを踏みやすい(ITARDA公表データ)
上半身を右方向にひねり、後方を目視する後退運転の姿勢の状態を想定。上半身をひねると足も一緒についてきてしまうので、そこに注意してほしい(ITARDA公表データ)
上半身を右方向にひねり、後方を目視する後退運転の姿勢の状態を想定。上半身をひねると足も一緒についてきてしまうので、そこに注意してほしい(ITARDA公表データ)

 AT車のセレクターレバーをキチンと操作していれば、自然発車は起こらない。そう思っているなら、それはちょっと情報が浅過ぎる。ATという複雑な機械を信頼し過ぎるのは危険なことかもしれないのだ。

 MTのようにドライバーが手動で動かしたレバーから力が伝わり、それが直接ギアを噛み合わせる動作に繋がっていれば、誤作動はほぼありえない(それでもMTのシフトフォークやリンク機構が摩耗で不正確になり、違うギアに入ってしまうことはありえなくはない)。

 だが、ATはドライバーの操作を信号として受け取り、最終的には油圧で変速操作を行なう以上、何らかのトラブルによって操作とは異なる動きになる可能性はある。

 ATには内部の機構が故障した時のために、セーフモードという仕組みが用意されている。これは変速操作が正しく行なわれなくなった時などに、特定のギア(3速や4速)にギアが固定され、整備工場までは走行できるようにしているのだ。

先代30系プリウスのシフトレバー。どのレンジに入っているかはメーター内の表示で確認できるが、どのレンジに入っていてもレバーは常に元の位置(中立ポジション=ニュートラルポジション)に戻るので区別がつきにくい。しかもエンジンが停止しても無音だから気づかない
先代30系プリウスのシフトレバー。どのレンジに入っているかはメーター内の表示で確認できるが、どのレンジに入っていてもレバーは常に元の位置(中立ポジション=ニュートラルポジション)に戻るので区別がつきにくい。しかもエンジンが停止しても無音だから気づかない

 ところがATがセーフモードには入らずに、ドライバーの操作とは異なる動きをすることも希に起こるのだ。そしてそれにもいろいろな原因がある。

 電子制御のATであれば、セレクターレバーは単なるスイッチに過ぎず、それは誤作動する可能性もあれば故障することだってありえる。

 機械油圧式のATでも、セレクターレバーの操作はワイヤーなどでAT本体に伝えられているが、経年劣化でワイヤーが伸びたり、ワイヤーとの接続部分のブッシュの劣化によりセレクターレバーの位置と、AT本体の動きがズレてしまうトラブルは、何車種かのクルマで実際に起こっていることを確認している。

 これはこれによりPやNレンジなのにセルモーターが回らないといったトラブルも起こっている。ということはPやNのつもりがATではRやDに入っている、ということが実際に起きているのだ。

 例えPレンジにシフトしたつもりがRレンジで止まっていたとしても、またシフトワイヤーの不具合でRレンジにシフトされていたとしても、サイドブレーキの拘束力で停止しているか、クリープでもさらにゆっくりと進むことで死傷事故は避けられる可能性は高まるが、そもそも車両の故障であれば操作ミスを犯人扱いするのは酷だろう。

クルマの高齢化で起こるトラブルや危険性

何度も切り返しを行ううちに、ペダルを踏み間違う恐れがある。狭い駐車場などは特に注意が必要だ
何度も切り返しを行ううちに、ペダルを踏み間違う恐れがある。狭い駐車場などは特に注意が必要だ

 問題はドライバーだけでなく、クルマも高齢化が進んでおり、車検時の点検整備では発見できない故障も起こる可能性が高くなっている、ということだ。

 仕事をリタイヤした高齢者のなかには、大事な移動手段であっても、クルマには必要最低限の予算しかかけられず、車検整備だけで乗り続けている老朽化したクルマも増えている。

 クルマの動きがいつもと違うことに違和感を覚え、自ら整備工場などに持ち込んで症状を伝え、修理してもらえればいいが、そうした運転感覚や判断力が鈍ってきた高齢ドライバーに対して、そこまでの車両管理能力を問うのは難しい(本来、運転者であれば、こうした車両管理は義務なのだが)。

 ちょっと古い情報で恐縮だが、ITARDAの調査によれば平成23年の乗用車の交通事故のうち、整備不良が原因であるとされたケースは年間で29件であった。

 平成15年の80件に比べれば大幅に減少しているものの、その後も減少傾向にあるという情報はない。なかでも変速機の故障によるものは年間1件程度だが、これは死傷事故(つまり人身事故)だけを対象にしており、ガードレールや他車、建物などに衝突して、人間の被害はなかった物損事故はカウントされていない。

自動車運転者による死亡事故の人的要因比較。データ出典:ITARDA『アクセルとブレーキペダルの踏み間違い事故』
自動車運転者による死亡事故の人的要因比較。データ出典:ITARDA『アクセルとブレーキペダルの踏み間違い事故』

 今後、日本の経済が劇的に改善されなければ、年金生活者も多い高齢ドライバーがクルマに十分な予算を回さず、十分な整備を行なわないまま走行を続けてしまうケースは確実に増えるだろう。

 運転免許の更新時の審査だけを厳格化しても、高齢ドライバーによる事故を減らすのは限定的な効果しか期待できない可能性がある。

 解決策としては、整備業界などの団体が高齢ドライバーの所有車を点検整備する優遇措置を設けられないだろうか。

 格安車検などのユーザー車検代行業者が行なう形式だけの24ヵ月点検ではなく、老朽化によって走行の安全性に問題を生じる部分の点検整備を高齢者向けに低額で行なう仕組みを作るのだ。もちろん不足分は政府が補助金で整備業界に充当すればいい。

 それか超小型モビリティへの乗り換えを促進するしかないだろう。クルマの電動化を推進するのであれば、小型軽量で動力性能を抑えて操作も簡素化した超小型モビリティへの買い替えに対して、補助金を手厚く用意すればいい。

 完全自動運転が確立するまでは、公共機関ではラストワンマイルの問題は解決できない。日本の内需拡大のためにも高齢ドライバーの安全性を高める政策をどんどん取り入れるべきではないだろうか。

【画像ギャラリー】交通事故分析センター(ITARDA)などの詳細データやグラフをまとめて紹介

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