多発するペダル踏み間違い事故 操作ミスだけでないAT車の誤作動による危険性


 高齢ドライバーのペダル踏み間違い事故は連日報道されているが、その原因や背景は、必ずしも画一的なものではない。

 高齢ドライバーの加齢による運転へのリスク傾向はある程度決まっているが、それでも交通事故には様々なケースがあり、その原因も意外なほど複雑な要素が絡んでいることが珍しくない。

 ペダル踏み間違い事故にしても、前後進を繰り返して切り返している最中にブレーキとアクセルを踏み間違えたという単純なものから、後退時に身体を捻ったことによる体勢のズレから踏み間違えたもの、ブレーキペダルをキチンと踏み込めていなかったために足が滑ってアクセルペダルを踏み込んでしまったものなど、ペダルを踏み間違えただけでもその内容は多種多様だ。

 さらに駐車場内で障害物にぶつけてしまったことで、気が動転してブレーキとアクセルを踏み間違えた、DレンジからRレンジへシフトするのを忘れたままアクセルを踏み込んでしまった、という二次的なハプニングによる事故も、こうしたペダル踏み間違いには含まれるだろう。

 そんななか、先日高齢ドライバーが起こした事故に注目したい。高齢ドライバーがクルマを停車した後、クルマの後方にいたのだが、クルマが動き出して轢かれてしまったのである。助手席には妻が乗っており、「ATはPレンジに入れたのにクルマが動き出した」というものだった。

 はたしてこうしたATの誤作動は起こりえるのだろうか? モータージャーナリストの高根英幸氏が多角的に分析し、解説する。

文/高根英幸
写真/ベストカーweb編集部 Adobe Stock

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脳の老化がペダル踏み間違い事故を引き起こす?

ペダル踏み間違いのイメージ
ペダル踏み間違い事故 年齢別の割合。特に75歳以上では近年、発生割合が増加しており、今後も増加が予測される(出典:交通事故総合分析センター「イタルダインフォメーション No.124」より)

 ペダル踏み間違いは、運転経験の少ない若年ドライバーでも起こることは分かっている。しかし高齢ドライバーの方が死傷事故につながる可能性が高い原因の一つには、加齢による脳の老化があるのだ。

 以前、ある自動車メーカーのエンジニアに教えてもらった(その方は、以前の研究職とは別の分野の仕事をされているので、詳細は控えさせていただく)のだが、ペダル踏み間違い事故の原因には、脳の老化の仕方も影響しているのだとか。

 年を取ると怒りっぽくなる、という話を聞いたことがあるハズだ。もちろん個人差はあるが、これは前頭葉の老化によるもので、感情を抑える機能が上手く働かなくなってきている、言わば脳の正常な老化なのだとか。

 ペダルを踏み込むと言う運動を司るのは脳の中でも原始的な小脳と呼ばれる部分で、ペダルを踏み込むのを抑えようとするのは、理性的な働きをする前頭葉と呼ばれる部分だ。しかし人間の脳は前頭葉の方が先に老化していくため、行動を抑制することが難しくなってくるのである。

老化によって前頭葉の機能が低下し、現在行っている操作を止める、抑える判断が鈍くなることがある(Adobe Stock@beeboys)

 大脳皮質の老化によって、感情を抑える前頭葉の機能が低下してしまうと、ペダルを踏み込む動作は出来ても、調整したり、踏み込むのを止めるという抑制は効きにくくなってしまうのだ。単にパニックになって緊張することで身体が硬直してしまって踏み続ける、というだけではないらしい。

 ITARDA(交通事故総合分析センター)によれば、2019年にはペダル踏み間違いによる死傷事故は全国で3845件発生していることが分かっている。

 ということはほとんど毎日のようにどこかの事故として報道されているから、このうち200件くらいはニュースとして扱われていると考えていい。他の事故と比べると、世間の関心を集めるために多く取り上げられている、という風に考えることもできるのだ。

 こうして高齢ドライバーによるペダル踏み間違い事故だけでも、様々な要因があることがお分かりいただけたと思う。

 しかし、昨今の高齢ドライバーによる交通事故でも、その原因がドライバーの運転操作ミスとされているのは、全体の3割でしかないのである。しかも本当にそれほど多いのか、単純に受け入れられない部分もある。

 それを実感させられたのが、先日起こったある交通事故の報道だ。運転者は高齢ドライバーで、助手席には妻が乗っていた。この高齢ご夫婦が乗車していたクルマが停車し、ドライバーが降りた後でクルマが動き出し、後方にいたドライバーが轢かれてしまったのである。

 妻は「Pレンジに入れていたのに、クルマが動き出した」と事故当時の様子を語っていたが、ネットでの反応は「どうせPとRを見間違えたのだろう」、「また高齢ドライバーか、どうせボケているんだろう」といった心無いものが目立った。

 確かに高齢ドライバーの運転操作ミスによる事故は多いから、そう考える気持ちも分からなくもないが、決め付けるのは早計だ。というのも運転席にドライバーが居ないのにクルマが動き出す「自然発車」による事故も一定数ある。

 平成21年から30年までの10年間で2352件あるものの、件数そのものは減少傾向にあるが被害者(この場合、自車の運転者だった場合も多い)も高齢化していることもあって、死亡事故は上昇傾向にあるのだ。

 サイドブレーキをきちんとかけることも、こうした「自然発車」と呼ばれる事故を防ぐためにも大事なことだが、原因は運転操作ミスだけではないことも知っておくべきだろう。それはAT車ならではの故障によるものだ。

ATの操作ミス? ATの故障で起こる可能性も

先日発生した交通事故では、Pレンジに入れたのにクルマが動き出したというが、ATが誤作動する可能性はあるのだろうか?
運転姿勢を変える挙動。右後方を向く動きでは、高齢者は股関節が硬くなってきているため、足先が無意識に右方向へ移動しやすく、ブレーキと勘違いしアクセルを踏みやすい(ITARDA公表データ)
上半身を右方向にひねり、後方を目視する後退運転の姿勢の状態を想定。上半身をひねると足も一緒についてきてしまうので、そこに注意してほしい(ITARDA公表データ)

 AT車のセレクターレバーをキチンと操作していれば、自然発車は起こらない。そう思っているなら、それはちょっと情報が浅過ぎる。ATという複雑な機械を信頼し過ぎるのは危険なことかもしれないのだ。

 MTのようにドライバーが手動で動かしたレバーから力が伝わり、それが直接ギアを噛み合わせる動作に繋がっていれば、誤作動はほぼありえない(それでもMTのシフトフォークやリンク機構が摩耗で不正確になり、違うギアに入ってしまうことはありえなくはない)。

 だが、ATはドライバーの操作を信号として受け取り、最終的には油圧で変速操作を行なう以上、何らかのトラブルによって操作とは異なる動きになる可能性はある。

 ATには内部の機構が故障した時のために、セーフモードという仕組みが用意されている。これは変速操作が正しく行なわれなくなった時などに、特定のギア(3速や4速)にギアが固定され、整備工場までは走行できるようにしているのだ。

先代30系プリウスのシフトレバー。どのレンジに入っているかはメーター内の表示で確認できるが、どのレンジに入っていてもレバーは常に元の位置(中立ポジション=ニュートラルポジション)に戻るので区別がつきにくい。しかもエンジンが停止しても無音だから気づかない

 ところがATがセーフモードには入らずに、ドライバーの操作とは異なる動きをすることも希に起こるのだ。そしてそれにもいろいろな原因がある。

 電子制御のATであれば、セレクターレバーは単なるスイッチに過ぎず、それは誤作動する可能性もあれば故障することだってありえる。

 機械油圧式のATでも、セレクターレバーの操作はワイヤーなどでAT本体に伝えられているが、経年劣化でワイヤーが伸びたり、ワイヤーとの接続部分のブッシュの劣化によりセレクターレバーの位置と、AT本体の動きがズレてしまうトラブルは、何車種かのクルマで実際に起こっていることを確認している。

 これはこれによりPやNレンジなのにセルモーターが回らないといったトラブルも起こっている。ということはPやNのつもりがATではRやDに入っている、ということが実際に起きているのだ。

 例えPレンジにシフトしたつもりがRレンジで止まっていたとしても、またシフトワイヤーの不具合でRレンジにシフトされていたとしても、サイドブレーキの拘束力で停止しているか、クリープでもさらにゆっくりと進むことで死傷事故は避けられる可能性は高まるが、そもそも車両の故障であれば操作ミスを犯人扱いするのは酷だろう。

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