なぜSUVの後席にはリクライニング機能が搭載されないのか?

■「装備てんこもり」が是ではない

 また、SUVは、多人数が乗るケースが多いと思われるミニバンとは違い、後席の快適性は優先度が低いとメーカーが考えている、ということもあるのだろう。コストとスペースを使ってリクライニング機構を装備するよりも、簡素にしてコスト低減とスペース効率を上げたほうがいい、と考えていると思われる。余計な機構はないほうが、重量が軽減でき、燃費にもいい。

 自動車のシートを取り外したことがある方はなかなかいないとは思うが、これが想像以上に重たい。フロア(床)面と繋げるベースフレームやシートフレーム本体、パワースライド等の機構部品など、諸々合わせると、総重量は30kgを越えてくる。

 3列シートミニバンの2列目のように、お客様がコストアップ(と重量増加)に見合うだけの価値を見出している場合には必要だが、そうでない場合、できるだけパーツを減らして「軽く」「安く」したいというのが、自動車メーカーが思うことだ。後席リクライニング機能に限らず、自動車メーカーは、クルマの使われ方やトレンドを加味して、アイテムの取捨選択をしているのだ。

■<余話>高級セダンの後席リクライニングは、後頭部がぶつからないのは何故か?

 少し前まで、セダンの後席といえば、はめごろし(スライドもリクライニングもできない)が多かったが、近年は、シートバックが前へ倒れてトランクスルーになるものや、リクライニングができるものも増えてきた。特に、高級車(レクサス『LS』や日産『シーマ』など)には、後席にパワーリクライニングシートが設定されていることが多い。

 しかし、後席乗員の頭のすぐ後ろまでリアガラスが迫っているセダンで、なぜ頭をぶつけることなくリクライニングすることができるのか。

 実は、背もたれを倒すのと同時に、座面を前方へスライドさせて、頭部がガラスに接触しないようにしているのだ。だが、尻の下には燃料タンクがあるため、スライド機構を入れるには、尻下のクッションの高さを削る必要があるが、この尻下のクッションが柔らかいと、座ったときに底着きしてしまって、ゴツゴツすることも考えられる。そのため、底着きしないよう、クッションのウレタン硬度を上げて対策を入れていたりもする。

 当然座り心地は硬くなる。スライド機構は無いほうが「フカフカ」な座り心地のシートだったりするのだ。

 昨今、社長や役員の移動車両が、高級ミニバンへと乗り換わっているように思えるのは、座り心地のよさを優先した、という理由も関与しているのかもしれない。

日産『シーマVIP』に備わるパワーリクライニングシート。背もたれを倒すのと同時に、座面を前方へスライドさせて、頭部がガラスに接触しないようにしている
日産『シーマVIP』に備わるパワーリクライニングシート。背もたれを倒すのと同時に、座面を前方へスライドさせて、頭部がガラスに接触しないようにしている

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