■携帯電話の電池メーカーから電気自動車メーカーへ転身の大ばくち!!
私は3年前に、深圳のBYD本社を訪れ、王CEOと、その側近でエンジニア出身の丁海苗(ちょう・かいびょう)副社長(2000年入社)を取材した。彼らは、いまから約20年前の日本にまつわるエピソードを話してくれた。
「当時、私たちは自動車産業への進出をもくろんでいました。その際、行ったのが、ダイハツのシャーリーを解体して、自動車の構造を徹底的に研究することでした。日本車は、深く内部構造を理解すればするほど、その精巧さに感銘を受けたものです。
2003年、われわれはひとつの重要な決断をしました。それは、このまま自動車の開発を続けていても、永遠に日米欧のメーカーにはかなわないと結論づけたのです。それよりも、わが社の得意分野は電池です。それならば、電池を動力にして走る電気自動車(EV)を開発することにしたのです。
これは大きな賭けでした。もしも将来にわたって、ガソリン車の時代が継続していくなら、私たちは敗北者になります。しかし、EVが主流となる時代が到来した暁には、BYDは世界の先駆者になれるのです。その時は、もしかしたらトヨタがコダックになるかもしれません」
コダックは、世界最大のカメラフィルムの会社だったが、今世紀に入りデジタルカメラの時代が到来し、淘汰されてしまった。そのデジタルカメラでさえ、いまやスマートフォンの出現によって淘汰されつつある。
この時のBYD最高幹部へのインタビューで、「トヨタ」という名前は、もう一回出てきた。
「電気自動車を世に問うていった時のわれわれの心境は、1965年のトヨタと同じ心境でした。当時のトヨタは、自分たちはアメリカ市場で通用するのかという不安を抱えたまま、乗り込んで行きました。実際、アメリカ人は当初、日本の自動車メーカーに疑心暗鬼でしたが、やがて受け入れました。同様に、わが社の電気自動車も、やがて世界が受け入れてくれる日がくると信じています」
結論を言えば、BYDは「賭け」に勝ったのである。周知のように、世界の自動車産業は、脱炭素の波を受けて、いまや一斉にEVに向かいつつある。
2020年の中国国内でのEVの販売台数のベスト3は、BYDが1位で17万9054台、2位は上海通用五菱で16万5609台、3位がテスラで13万5449台だった(中国乗用車連合会発表)。BYDは、世界中で人気を誇るテスラ車を押しのけて、中国市場でトップに立っているのである。
特にBYDが有利な点は、もともと電池の会社なので、「EVの心臓部」と言える電池を、自社でまかなえることだ。この点は、テスラにしてもトヨタにしても、電池メーカーと提携しないとEVが作れないことを考えれば、大きな経費とリスクの回避になるというわけだ。
中国の自動車業界に詳しい中国大手紙の知人の中国人記者は、今回の上海モーターショーでのBYDとトヨタの提携に関して、次のように述べた。
「今回のマッチングは、BYDよりもトヨタ側からのラブコールによって成立した。トヨタは中国で、『広汽豊田』と『一汽豊田』を持っているが、今後のEV時代を考えると、どうしてもナンバー1のBYDとの提携を確保したかったのだ。
逆にBYDが欲しかったのは、『TOYOTA』という世界に通用するビッグネームだ。同じEVでも、『BYD』よりも『TOYOTA』の名前をつけて売ったほうが、世界市場に浸透していけるからだ」
長くトヨタを仰ぎ見ていたBYDは、明らかにトヨタに憧憬を抱いている。その意味では、私はBYD側もトヨタとの提携には、感極まるものがあったと思う。今後の両雄の「結婚生活」に注目していきたい。
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