■水素の搭載性の課題はまだまだ要カイゼン
水素の搭載性についてはいまだに課題で、ミライ用をベースに増量した700Mpa/180Lタンクを搭載した「水素燃料カローラ」は、富士スピードウェイ10〜12周ごとに水素チャージのためにピットイン。レーシングスピードでの航続距離は満タンで50km前後ということになる。
その一方で、ミライは700Mpa/141Lの水素で最大850km(WLTCモード)走る。レースカーと乗用車を直接比較するのは乱暴だが、水素燃焼エンジンはエネルギー効率をまだまだ改善する必要があると言わざるを得ない。
では、トヨタが何故いま水素燃焼エンジンを突然(のように見える)アピールしてきたかだが、これはEV偏重に傾きすぎている環境世論に一石を投じるのが目的、ぼくはそう思っている。
2017年にフランスとイギリスが「内燃機関は2035年以降販売禁止」という政策を打ち出して以降、突然内燃機関に対する風当たりが強くなった。
そんな中で、「クルマは全部EVにしろ!」みたいな暴論もしばしば見かけるようになったが、こういう主張をする人に「EVも発電所からCO2出ますよ」とか「内燃機関とEVにはそれぞれ一長一短があります」といったファクトを説明しても一顧だにされない。
EVの「走行中のCO2排出ゼロ」という分かりやすさに対して、「ウェル・トゥ・ホイールで考えよう」とか「ライフサイクルアセスメント(LCA)で見るべき」といったメンドくさい理屈では絶対に勝てないのだ。
「分かりやすさ」に対抗するために「分かりやすさ」しかない。そう腹を括ったトヨタが選んだ反撃のエースが水素なのだ。
■トヨタが水素エンジンで本当に言いたいこと
水素の魅力は無尽蔵といっていい豊富な元素であることと、酸素と反応させてエネルギーを取り出したあとに残るのは水だけ、というクリーンなイメージ。環境イメージとしてはこれほど魅力的なアイテムはない。
トヨタはこれをまずFCVとして実用化したわけだが、それをさらに内燃機関にも応用可能である点を実証。CO2削減にはさまざまな選択肢があることを広くアピールして電動化一本槍の欧州勢を牽制しつつ、内燃機関の可能性にも再度光を当てるという筋書きだ。
こういう戦略にはメディア対策が極めて重要だから、豊田章男社長が実際にレースを走って水素エンジンの可能性を語るなど、舞台設定もぬかりなし。おかげで、先日のスーパー耐久富士24時間レースには新聞各紙やテレビ局など大手マスコミが結集。いつものS耐とはぜんぜん雰囲気の違う取材ラッシュとなった。
EVはもちろんやるけれども、水素もやるし内燃機関もまだまだやれる。トヨタが言いたいのは、「環境戦略の選択肢は広い方がいいでしょ?」というごくごく当たり前のこと。
EV一本槍で凝り固まっているどこかのメーカーより、ぼくはそっちの方が理にかなっていると思うなぁ。
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