自動運転の最前線情報をお届けする本連載企画、今回は高齢化社会と免許制度と自動運転技術についてです。
日本において今後どんどん進んでゆく高齢化社会。自動車の世界でも、アクセル/ブレーキ踏み間違い事故の増加や、運転免許返納の問題、そうはいっても地方では公共交通が成り立たなくなってきており、高齢者でも運転せざるをえない状況が続くなど、さまざまな問題が噴出しています。こうした問題を自動運転は解決できるのか。西村直人氏に解説していただきます。
文/西村直人 写真/Adobe Stock(アイキャッチ画像は@maroke)、TOYOTA
シリーズ【自律自動運転の未来】で自動運転技術の「いま」を知る
■高齢化社会と自動車の関係を「技術」で解決できないか
人は誰しも等しく年を重ね続けます。そこには個人差があるものの、体力は加齢によって若い頃から徐々に低下します。同時に、視力や聴力など運転操作に直接関係する身体的能力も低下することが認められています。
では、高齢者はクルマの運転をあきらめるべきなのでしょうか?
大前提としてご自身が運転操作に不安を感じずに、外部(第三者)からみても運転操作が正しく行えており、認知症など周囲の状況を正しく判断できない状況でなければ、運転免許証の返納を必要以上に迫る必要はないと筆者は考えています。
昨今、高齢ドライバーによるアクセルとブレーキのペダル踏み間違い事故の報道が目立ちます。しかし、高齢ドライバーといってもさまざまであることから、年齢だけで運転操作不適と判断するのいささか乱暴です。
クルマ利用に限らず、移動する行為は「生活の質」と呼ばれるQOL(Quality Of Life)の向上にとって非常に重要である、という研究結果が世界中から報告されています。
このことからも、個々の移動に強い制限を設けるのではなく、身体の状態に応じて臨機応変な対応を求めることが理想的であると考えています。その臨機応変な対応の一助が自動運転技術です。
■「免許返納」だけでない可能性を
ある自動車メーカーでは「身体能力のうち、どの分野から衰え始めるのか」という検証を、同じ被験者グループの定点観測という手法で長期間行ないました。
その結果、ひとつの傾向として、動体視力の低下や相対速度の認識力が衰える(鈍る)ことがわかりました。同時に、時系列で降り注ぐ複数の事象を統合的に判断して、適正な運転操作を導き出す能力が乏しくなることも示されました。
たとえば、前方の赤信号が点灯→アクセルを緩めてブレーキの準備を行う→前走車がブレーキを踏む→自車もブレーキ操作を行う→目視に加え、ドアミラーやルームミラーで周辺の車両や後続車の動きを把握しながら停止する……。
これらは何気ない運転操作ですが、高齢ドライバーのなかにはブレーキ操作が遅れてしまうなどスムースに行えない方もいるようです。
こうした状況を踏まえ、この自動車メーカーでは高齢ドライバーに見られる傾向から、車載センサーの夜間における歩行者認識性能を向上させるなど、衰えた身体的能力を補完しつつ、適正な運転操作をサポートする高度な運転支援技術の研究開発を行っています。
しかし、最近になって状況に変化が表われました。いくら高度とはいえ、運転支援の領域では自車が搭載する各種センサーからの情報に限定されるため、対応できる状況に制約があり、高齢ドライバー特有の不得意な運転操作のカバーがむずかしいことがわかってきたからです。
それを受け、たとえばトヨタでは高齢ドライバーが不得意とするシーンでの運転操作を、部分的に自動運転の要素技術でカバーする「急アクセル時加速抑制機能」を実用化しました。
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