■1989年に登場したZ32型フェアレディZはどんなクルマ?
当時の国産車は、ハイパワーFRモデルのトラクションがそれほど高くありませんでした。パワー(トルク)が大きすぎると、簡単にタイヤがホイールスピンを起こしてしまい、思うようにクルマが真っ直ぐに進んでくれなかったのです。
ハイパワー化しても限界領域の特性がシビアになるだけでは? そんな不安がぬぐえませんでした。今にして思えばボディ剛性や、ダンパーのフリクションの改善である程度対処できるのでしょうが、当時は前ストラット/後セミトレーリングアームというFRの定番サスペンション形式の限界などともいわれていました。
そんななか、Z32フェアレディZは前後マルチリンクサスペンションと、サスペンション形式も一新し、ボディ剛性も大幅アップして登場しました。
新世代の本格スポーツカーの強力なパワースペックを引っ提げての登場だったので、新型サスペンション形式のトラクション性能も、きっと大幅に進化しているに違いないという期待が膨らんで、もの凄い性能のスポーツカーが登場したという空気感がありました。
デザイン的にも、Z31型のミドルクラススポーツから、滑らかでいかにも空力のよさそうな堂々たるものに変わり、抜群の存在感を持っていました。
インテリアもセンターコンソール周りのデザインがすっきりしていて、ラグジュアリースポーツの趣がありました。とにもかくにも「280馬力」という数字は高性能の大きな説得力になっていました。
■電子制御なしのドッカンターボは超強烈だった!!
で、いざ走らせてみても39.6kgmのトルクは超強烈で、車重はZ31型から80㎏くらい重くなっていたのですが、そんなことはいっさい関係なく、力任せに豪快に車速を押し上げていく豪快さがありました。
期待のマルチリンクサスペンションはびっくりするくらいしなやかで、こんなに柔らかでいいの? と思えるほどでしたが、コーナー立ち上がりでパワーをかけるとリアサスペンションがググっと沈み込み、トラクションをため込みながらしっかりとパワーを受け止めているのが感じられました。
限界付近のクルマの動きはとてもわかりやすく、滑り出す時もびっくりするくらい穏やかで、リアサスペンションがほぼ沈みきったところから、ズズズッとゆっくりスライドが始まるんです。
ボディがしっかりしていると、こんなにクルマの動きがわかりやすいのか、というのも実感として感じることができました。
……なんて書くと、初めからスイスイ乗れていたように思えるかもしれませんが、ボクに限っていえば、さすがに280馬力をはじめから軽々扱えるわけもなく、初めはおっかなびっくりでした。
ツインターボといっても今ほどターボのレスポンスがいいわけではないので、1拍おいてから強烈なターボパワーがブワッと立ち上がってくるわけですから、無造作なアクセル操作をすると突然リアタイヤのグリップを失ってしまうんです。
当時はABSがようやく普及してきたところで、当然ESC(横滑り防止装置)なんて装備されていませんでした。
電子制御でアクセルをコントロールしてくれるわけもなく、いくら最新型のサスペンションを装備しているからといっても、アクセルを踏みすぎれば簡単に後輪がグリップを失ってしまうので、パワーコントロールはもっぱら足先の力加減のみで、その緊張感はなかなかのものでした。
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