■「レベル3」では到底無理
人は脳への情報のうち80%以上を視力から得ています。よって、レベル3稼働時に許されるカーナビ画面であれば詳細な地図情報が、同じくDVD観賞であればストーリー性のある映像が眼から脳へと入力され続けます。
また、見る行為だけでなくカーナビであればルートの詳細な設定など、スイッチ操作や画面タッチがレベル3稼働時には行え、DVD観賞では同時に音声が耳に届くことから没入感が一層高まります。
筆者がレベル3技術を公道試乗している際、何度かシステムから運転再開の要請がありました。このシステムからの要請はTOR(Take Over Request)と呼ばれ、システムの運行設計要件であるODD(Operational Design Domain)から外れそうになる際に発せられます。
わかりやすく説明すれば、システムが手に負えなくなると判断する状況に近づくとTORが発報されるわけです。
従って、ドライバーは目線こそ自車周囲に向けていなくとも(=液晶画面を見ていても)、自車周囲で高まる危険な状態を肌身で感じなければなりません。第六感を働かせるといったら大げさですが、通常の運転操作とは異なる緊張感を保つ必要があるのです。
当然、そうなれば飲酒状態での単独乗車は、現状のレベル3環境下ではあり得ません。TORに従い、ドライバーによる手動運転が課されるからです。このことは道路交通法でも禁止であると定められています。
さらに筆者の場合、システムからのTORを受けて、ステアリングを握りペダル類のスタンバイをしたところで、運転操作をすぐさま再開することが出来ませんでした。
なぜなら、カーナビやDVDを映し出す液晶画面に目線を落としていたことで、自車周囲の目視による安全確認がその間、疎かになっていたからです。TORを認識→、運転再開のスタンバイ→、運転操作へ気持ちを切り替え→、目視による安全確認。これら一連の運転再開動作を完了するまでに、筆者の場合は3~5秒程度かかりました。
こうしたレベル3稼働時に伴う緊張感は、危険度が低いと思われる自車速度の低いシーンでも強いられます。
■有能な運転者でも避けられない事故は
Honda SENSING Eliteのレベル3稼働時は、前走車との車間距離をいつも以上に保つ傾向(前走車との車間距離設定が通常のACC4段階から、「遠い」と「やや遠い」の2段階に限定)がありますから、複数車線の高速道路などでは渋滞時、隣車線からの割り込みが高い確率で想定されます。
仮に、割り込み車両が4輪車であれば、レベル3での減速ブレーキが働き、減速度が足りない場合は、さらに強いブレーキが掛けられる「衝突被害軽減ブレーキ」が高い確率で作動します。
しかし、ボディが小さな二輪車であったり、衝突予測時間であるTTC(Time To Collision)が1秒以下であったりすると、たとえ30km/hで走行していても1秒間に8m以上進むわけですから、目の前の割り込みには対応しきれない場合があります。
国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)では、レベル3要件のひとつに、「少なくとも注意深く有能な運転者と同等以上のレベルの事故回避性能」があることを掲げています。
ということは、有能なドライバーでも物理的に避けられない、先のような割り込み状況で発生する事故の可能性は、レベル3搭載車であってもあり得るという判断が成り立つのです。
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