■「それならレベル2と同じじゃないか!」
さて、こうした事実関係を経て本テーマである移動時間の有効活用術とはどういったことなのでしょうか?
ズバリ、結論から。
レベル3最大の目的は、事故ゼロ社会の実現に向けた最適解のひとつになることです。そのためにドライバーの負担軽減として現在のレベル3、いわゆる条件付自動運転車が存在します。
言い換えれば、事故ゼロ社会の実現に向けた手段として運転操作の負担軽減があり、その負担軽減を受けたドライバーが、より快適に、そしてシステムの見護りを受けながら目的地まで安心・安全に到着することを目指した技術がレベル3である、これに尽きます。
「ならば、レベル2の運転支援車と同じじゃないか!」と考える読者もおられるでしょう。
確かに、レベル3のシステムにはレベル2にはないアイズフリーが追加されているものの、フットフリーやハンズフリーはレベル2の運転支援車でもドライバーに提供されています。スカイラインの「ProPILOT2.0」やレヴォーグの「アイサイトX」などは、いくつかの条件が付くもののドライバー責任のもとハンズフリー走行が行えます。
我々にとって最大の関心事であるレベル2とレベル3の違いは、システムの確かさにあります。
専門用語で冗長性と呼ばれるこの定義は、ユーザーからすれば冗長性に長けているほど、システムが正しく稼働する時間や走行条件が増える、そう理解できます。
例えば、道路上の白線(黄線)がかすれてしまい、レベル2の光学式カメラでは車線中央維持機能の精度が下がってしまう場合でも、レベル3では全球測位衛星システムであるGNSS(Global Navigation Satellite System)情報や、高精度地図情報(HDマップ)に書き込まれた車線区分線や規制速度情報を元に、より安全で精度の高い運転支援を行います。
レベル2の「ProPILOT2.0」や「アイサイトX」などでも、運転支援の精度を高めるためにHDマップの類いを活用していますが、LiDAR(光)センサーを追加するなどレベル2以上に複数種類の車載センサーをフル活用するレベル3が、例えば自車位置を把握する能力面では優れています。
レベル3ではさらに、要件に電源システムの二重化も加わっていることから、フェイルセーフの面からも一段高いシステム設計が施されています。
加えてレベル3には、TORを発した際にドライバーに対してその状況をわかりやすく、正確に、素早く伝える、人と機械の接点である専用のHMI(Human Machine Interface、~interactionとも呼ぶ)の実装が不可欠で、これはWP29の決定事項にも定められています。
具体的には、車内各所に配置されたLEDカラーの変更やそれらの点滅、さらには警報ブザーやシートベルト巻き上げ機能など、いわゆる五感に訴えかける体感警報により、ドライバーの振るまい(例/運転操作の再開)を強く導くHMI設計が、レベル2以上にレベル3ではなされているのです。
ちなみにHMIは、この先、進化する自動運転技術に歩調を合わせて重要性が飛躍的に高まります。
■次の段階(レベル4)へと駒を進めるとき
2017年10月、筆者はフランクフルトモーターショーの会場でダイムラー社のディーター・ツェッチェCEO(当時)に、「自動運転車両にとって不可欠で、重要なHMIな何か?」という質問を行ないました。
そこで氏は「それはボイスコマンド機能だ」と即座に回答。続けてツェッチェCEOは、「それには条件があり、これまで使われてきた汎用ボイスコマンド機能(例/カーナビ操作用の単純な言語認識機能)とは違う、AI(人工知能)とクラウドを併用したシステムが不可欠になる。また、自動運転の技術開発が進めば同乗者とのコミュニケーションにもボイスコマンド機能は重要だ」と答えました。
そうした意味で捉えると、現行Aクラス以降、新型Sクラスや最新Cクラスなど、メルセデス・ベンツ各モデルが搭載しているMBUX(Mercedes-Benz User Experience)は、人と機械の共通理解を促進するツールとして重要なHMIであることがわかります。
さらに将来的には、車両の制御面にまでボイスコマンド機能が及ぶことも考えられ、そうなると自動運転技術との連動も当然のこととして議論されるでしょう。
2021年3月、レベル3搭載車の市販化がスタートしました。この先は、レベル4搭載車の実用化へと駒を進めます。
まずはMaaSの領域から実用化されるレベル技術4ですが、ここでは緊急時であっても乗員の運転操作を期待しないことが定義されていることから、レベル3におけるTORのような緊張感が伴わず、純粋に移動の質を高められることが期待できます。この点については、追って解説します。
また、内閣府ではレベル4技術を最適化して高速道路上を走行する大型トラックに実装し、3~5台の隊列走行(カルガモ走行とも言います)を2025年度以降に実用化を目指すとしています。
次回は、その大型トラックの自動運転技術の現状と、その礎となる高度な運転支援技術、そして将来像について最新情報を交えてレポートします。
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