■熾烈さを増すEV市場
まずは、次世代日産のシンボルである「アリア」だ。
価格はベースモデル「B6 Limited」が税込み660万円という発表を聞いて、筆者は「少し高い」という印象を持った。
なぜならば、アメリカで先行発売され、アリアのライバルといえるフォード「マスタング マッハE」が4万2895ドル(1ドル110円換算で472万円)だからだ。
それでも、アリア日本仕様の初期受注が予約発売開始10日間で3936台となり、そのうち45%を占める最販車が最上級グレードの「Limited B9 e-4ORCE」(790万200円)となった。
日本市場では単純比較できないが、グローバル市場でみれば、テスラ「モデルX」(AWD)のアメリカ価格が8万3190ドル(915万円)であり、アリアはプレミアムEVとしてはリーズナブルだといえるだろう。
ただし、アリアを取り巻く市場環境は、大手自動車メーカーでは日産が「リーフ」で独り勝ちし、そこに新興勢力のテスラが独自路線を行くという2010年代前半から中盤とは大きく変わっている。
欧州では、欧州委員会(EC)による世界で最も厳しいとされるCO2規制強化が進むなか、2016年にEVシフトをいち早く打ち出したフォルクスワーゲングループでは、VW、アウディ、そしてポルシェなどで多様はモデルが登場し、またメルセデスベンツとBMWを加えてジャーマン3全体としてEVモデル拡充が進む。
北米でも、GMがEVプラットフォームのアルティウムによって、GMC「ハマーEV」からホンダと協業する「プロローグ」まで多様なラインアップを揃え、フォードは前出の「マスタングマッハE」に次いで、なんとアメリカの王道フルサイズピックアップトラックF-150を「ライトニング」としてEV化した。
さらに、中国では政府のNEV(新エネルギー車)政策により多様なEVが続々と登場している状況だ。
こうしてEV市場での競争が激化するなか、日本でも「アリア」成功を楽観視できる状況ではない。
■新型エクストレイルへの期待
日産としては、「リーフ」「アリア」で培った、電動化関連技術を新世代e-POWERとして各種モデルに横展開することが、黒字化に向けた新商品の中核になることは明らかだ。
「キックス」、「ノート」ときて、日本でこれから期待が高まるのはもちろん「エクストレイル」だ。
アメリカでは「ローグ」として先行発売され、2021年1~3月期の販売台数は北米日産ブランド17モデルのうち最も多い8万6720台を記録した。これは、北米日産ブランド全体で32%を占める主力製品だ。
またアメリカでの日産といえば、前世代のローグを含めて車歴が長いことで販売店向けのインセンティブ(販売奨励金)が高く、実質的な叩き売りで販売台数を稼いでいたが、こうした負の連鎖を断ち切ったことを日産幹部は決算発表で公表している。
そのため、新型ローグによる日産本社の収益性も大幅に改善する方向に向かっている。
こうした北米でのローグ成功を受けて、日本でも新型エクストレイル登場を待ち望んでいる販売店とユーザーが多い。
注目されるパワートレインについては、上海ショー2021で発表された、いわゆるe-POWERターボへの期待が高まる。また、三菱自動車工業とのアライアンスから次期アウトランダーとPHEVユニットを共有化するモデルがe-POWERターボと併売される可能性がある。
エクストレイル(およびローグ)は日本を含めてグローバルで売上額が最も高い日産モデルとなることは明らかであり、日産の3期連続赤字回避のためにも、日本市場で今期中の可能な限り早い段階で発売する必要がある。
アリアを新技術のシンボルとし、さらにエクストレイル(ローグ)を販売の中核に置いたうえで、日産ブランド全体を牽引するのは新型「フェアレディZ」となることが明白だ。量産型ワールドプレミアは、2021年8月17日の米ニューヨークショーが確定している。
また、来期以降の日本市場向けにはセレナの進化を期待するのは当然だが、ミニバン全体で見れば商用車NV350のキャンプ・トランスポーター向けマーケティング戦略「車中HACK」を発展させた形を次期エルグランドに取り入れるようなサプライズを期待したいところだ。
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