ホンダが世界的な販売ラインアップの見直しを進めている。国内ではS660、レジェンド、クラリティ、オデッセイ、そしてNSXの生産終了を発表。この先も車種整理を進めていくだろう。
この背景には、2021年4月23日、三部敏宏(みべ としひろ)新社長が就任会見で語った、「先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%、2040年には、グローバルで100%を目指す」という目標が関係している。
つまり2040年までにホンダは(純ガソリン仕様どころかハイブリッド車もすべて生産を終了して)作るクルマすべてをEVもしくはFCVにする、と言ったわけだ。
そんなことが可能なのか。そして経済界からの評価はどうなのか。経済評論家の加谷氏に分析していただいた。
文/加谷珪一(経済評論家)
写真/HONDA
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■欧州をはじめEV転換の動きが相次いでいる!
今年(2021年)4月、ホンダが事実上のガソリン車全廃宣言を行った。当初は「とりあえず宣伝しただけというレベルに過ぎない」といった反応がもっぱらだったが、その後、EU(欧州連合)がハイブリッド(HV)を含むガソリン車の新車販売を35年までに禁止する方針を打ち出したり、独メルセデス・ベンツが30年にもすべての車種を電気自動車(EV)にするなど、市場はホンダが想定した以上のペースで進んでいる。
同社の発表は一部の業界関係者には衝撃的だったかもしれないが、市場は「当然に予想された結果」であるとして前向きに受け止めている。言うまでもなくホンダは、創業者である本田宗一郎氏のDNAが色濃く残る企業だが、宗一郎氏の人物像を考えるなら、むしろ積極的なEV転換こそ同社の本領であると解釈することもできる。
■ホンダが掲げた「事実上のエンジン全廃宣言」
ホンダは2021年4月、2040年までに世界で販売するすべての新型車を、EVか燃料電池車(FCV)に切り換えると発表した。これまで他の日本メーカーも何らかの形でEVシフトを宣言しているが、ホンダが掲げた目標は次元がまったく異なる。
例えばトヨタは2030年にHVを含む電動車比率を約8割にするという目標を掲げているが、基本的にはHVで台数を稼ぐ戦略であり、EVとFCVの比率は低い。だが、ホンダが目標を達成するためには2030年の段階で約4割、35年には8割をEVかFCVにしなければならない。
自動車は新製品を市場に投入するまでには相応の時間がかかる。製品開発サイクルや生産設備の減価償却などを考えた場合、ホンダが掲げた新EV戦略は、事実上のエンジンの全廃宣言と捉えてよいだろう。実際、EVシフトを宣言した海外メーカーは、事実上、新規のエンジン開発をストップしているし、そうしなければ目標を達成することは不可能である。
ホンダは、ステップワゴンの大ヒット以後、企業イメージが大きく変わったが、基本的にスポーティーカーを得意としてきたメーカーであり、特にエンジン開発には並々ならぬ努力を注いできた。同社のエンジンは基本的に高回転域に達しないとトルクが得られない特性になっており、いわゆる「走り屋」と呼ばれるユーザーを強く意識して設計されている。
エンジン開発は子会社である本田技術研究所が担当しており、本田技術研究所の社長を経験しなければホンダのトップにはなれないとされてきた。EV化の先鞭を付けたのは八郷隆弘前社長だが、八郷氏は基本的にボディ、シャシー部門の出身であり、歴代社長でただ一人、本田技術研究所の社長を経験していない。異色の経歴がEV化の原動力になったとも言われたが、後任で現職の三部敏宏氏は本田技術研究所社長を経てホンダのトップに就任している。
三部氏は典型的な「エンジン屋」ということになるので、その三部氏の口から大胆なEVシフトとエンジン全廃宣言が出てきたことから、一部の関係者が衝撃を受けたという図式である。
確かにホンダは内燃機関にこだわりを持ってきたメーカーではあるが、あくまでそれは結果に過ぎない。宗一郎氏の実業家としての姿勢を一言で表わすなら、特定の技術にこだわることではなく、市場が求める製品を提供するということに尽きるだろう。宗一郎氏は顧客を大切にする根っからの商売人だが、こうした宗一郎氏の性格は経歴を見ればよく分かる。
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