トヨタ「ヤリス」が1年以上販売トップに君臨し続けている理由は?

■グレード展開による幅広い対象顧客

 多彩なグレード構成も、好調に売られる理由だ。ハッチバックのヤリスはヴィッツの後継車種だから、乗り替えを希望するユーザーも多い。一般の顧客に加えて、営業車に使う法人、レンタカーなどの需要も豊富だ。そこを考えてノーマルエンジンに直列3気筒の1.5Lと1Lを用意した。

 1Lは1.5Lよりも設計が古く、動力性能に加えて燃費性能まで下まわるが、価格も14万3000円安い。X・Bパッケージは、安全装備の衝突被害軽減ブレーキを省いたから推奨できないが、価格は140万円以下の139万5000円だ。

 さらにSUVのヤリスクロスにも、同様に安全装備を省いた1.5LノーマルエンジンのX・Bパッケージを用意する。価格は180万円を下まわる179万8000円で、安さを重視する需要をねらう。

ヤリスクロスにも安全装備を省いて低価格にしたグレードを用意するなど、幅広いグレード展開も好調な理由か
ヤリスクロスにも安全装備を省いて低価格にしたグレードを用意するなど、幅広いグレード展開も好調な理由か

 実用重視のコンパクトカーならともかく、SUVにこのような法人やレンタカー向けの仕様を用意するケースは珍しい。幅広い顧客を相手にするトヨタらしさで、ヤリスシリーズの好調な売れゆきにも結び付いている。

■選び分けで痒いところに手が届く「トヨタらしさ」の体現

 商品力にも注目したい。

 ハッチバックのヤリスは後席と荷室が狭いが、ハイブリッドのWLTCモード燃費は35.4km/L~36km/Lに達する。国内で販売される乗用車では、燃費数値が最も優れている。

 ヴォクシーの2Lノーマルエンジン車のWLTCモード燃費は13.2km/Lだから、ヤリスハイブリッドに乗り替えると、燃料代を40%以下に抑えられる。

ハッチバックのヤリスはハイブリッドのWLTCモード燃費が35.4km/L~36km/Lだ。特に燃費性能に優れている点が、商品力としてある
ハッチバックのヤリスはハイブリッドのWLTCモード燃費が35.4km/L~36km/Lだ。特に燃費性能に優れている点が、商品力としてある

 ヤリスクロスは都会的なコンパクトSUVで、後席の居住性はヤリスよりも少し快適だ。ヤリスの実用性に不満を感じた時、ヤリスクロスを検討すると、満足できることもある。

 その代わりヤリスの価格は、ヤリスクロスに比べて22万~24万円安い。ハッチバックとSUVというボディタイプの違いと併せて、実用性と価格でも選び分けられる。ヤリスとヤリスクロスは、互いに選ぶメリットを補いながら売れゆきを伸ばしている。

 デザインや運転感覚は、ヤリス、ヤリスクロスともに特に優れてはいないが、コンパクトな車種に散見されやすい粗さは払拭させた。多くのユーザーに出費に見合う満足感を与え、購入後の乗り替え需要に繋げられることも、ヤリスシリーズの特徴だ。

 その意味でヤリスシリーズは、トヨタ車の典型だから、好調に売れているともいえるだろう。

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