■「ベストセラー」は数字の妙技
以上のようにヤリスの登録台数は、複数のボディタイプを合計したから大幅に増えたが、ここにもトヨタの巧みな戦略が絡む。複数のボディを合計しても、国内販売の1位を獲得すれば、「ベストセラーカー」としてニュースになるからだ。
TVや新聞では「ヤリス+ヤリスクロス+GRヤリスを合計して販売ランキングの1位になった」とは報じないので、多くの人達はヤリスが絶好調に売られていると受け取る。
逆にヤリスクロスの車名は登場しないが「ヤリス」として取り上げられればいい。安定的に国内販売の1位とされていたN-BOXを押さえ込むことが可能になるからだ。
国内販売の過去を振り返ると、1997年頃までは、カローラが安定的に新車販売の1位であった。稀に年間販売の1位を奪われても、翌年には奪い返した。
それが軽自動車が規格を一新した1998年以降は、国内販売の総合1位がワゴンRなどの軽自動車に変わり、カローラは小型/普通車の登録台数1位になった。2008年以降は、小型/普通車のプリウス、アクア、フィットなどがカローラの売れゆきを上まわるようになっている。
そこでトヨタとしては、改めて国内販売の1位に君臨する車種として、ヤリス+ヤリスクロス+GRヤリスのヤリスシリーズを用意した。小型/普通車だけでなく、N-BOXをはじめとする軽自動車軍団にも負けない確固たる新車販売1位を築くわけだ。
トヨタは軽自動車を扱わないので「N-BOX対策」の意味は特に大きい。
■全店/全車販売体制の影響も?
ヤリスシリーズが販売1位になった理由として、2020年5月に実施されたトヨタの全店/全車販売体制も挙げられる。ヤリスが同年2月に発売された時点では、東京など一部の地域を除くと、ネッツ店のみの取り扱いだった。
それが全店で全車を扱う体制に変わると、人気車は好調に売れて、不人気車は落ち込んだ。
ヤリスは人気車の部類に入るので、売れゆきを伸ばせた。逆にプリウス、アルファード、クラウン、先代アクアなどは登録台数を減らしている。
この経緯について、トヨタ店は以下のように述べた。
「クラウンのお客様がアルファードの購入を希望された時、以前はなるべくクラウンに留まっていただけるよう、いろいろな条件を示した。クラウンはトヨタ店だけが扱う商品だから大切に売りたい。アルファードはトヨペット店だから、乗り替えられるとお客様も失ってしまう。しかし今はトヨタ店でもアルファードを販売するので、お客様のご希望次第で乗り替えることもある。ただしそうなるとクラウンの売れゆきは下がる」。
トヨタに限らず、全店が全車を扱うと、人気車と不人気車の販売格差が拡大する。この効果もあってヤリスシリーズは売れゆきを伸ばせた。
特に今は、安全装備や運転支援機能の充実により、クルマが値上げされている。ミドルサイズやLサイズの車種から、コンパクトなクルマに乗り替えるユーザーも増えた。
そこに全店が全車を扱うようになった影響も加わり、ミニバンやSUVなど、さまざまなトヨタ車のユーザーがヤリスシリーズに乗り替えている。
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