作りたくてもできない!? エンジニアが語る「お客様目線」のクルマとは

■じゃあなぜ、日本で売れそうにない大型セダンを出すのか

先日発表された新型シビックもいかにもアメリカンな大柄なボディサイズだった。日本向けのサイズにしたくてもできなかったホンダの苦悩が伝わる
先日発表された新型シビックもいかにもアメリカンな大柄なボディサイズだった。日本向けのサイズにしたくてもできなかったホンダの苦悩が伝わる

 そうしてつくられた新型SUVは、中国や欧州、そして日本など、アメリカ以外の国へも販売されることは当然あるが、そのモデルのメイン市場である北米ユーザー(ジェームス)に向けてつくったモデルであるため、他の地域ではマッチしないことは、メーカーとしては承知の上だ。

 かつて、「レクサスES300」を日本導入する際(「ウィンダム」という名で販売された)、パイロットが乗っているカッコよいイメージのテレビCMで憧れを持たせた、というイメージ戦略が成功した例はある。

 しかし、北米市場向けとして、アメリカ人に合わせたデカいボディと、ハイウェイでの加速で負けないパワフルなエンジンを積んだSUVが、道路事情の異なる日本で合うはずがない。

 先日発表となったホンダの新型シビックを見ると、見事にアメリカナイズされたボディサイズにはがっかりしたが、日本市場向けには開発ができなかったホンダの苦悩も見て取れる。

 クルマをつくるには、膨大なコストがかかる。材料や部品代等はもちろんのこと、工場への設備投資、そして開発段階でも実にさまざまな試験を必要とするため、その設備や部品代などに、相当な投資が必要となる。それらにかかったコストを回収し企業として利益を得るには、数万台から数十万台は売る必要がある。

 そのため、新型シビックのように、多く売れる市場にペルソナを設定するのは、仕方のないことだが、それをやってのけているのが、トヨタくらいしか、筆者は思い浮かばない。

■トヨタだからできること

カローラ初の3ナンバーサイズとして登場した現行型カローラ/カローラツーリングだが、実は国内向けと海外向けでボディサイズを変えている
カローラ初の3ナンバーサイズとして登場した現行型カローラ/カローラツーリングだが、実は国内向けと海外向けでボディサイズを変えている

 2019年にデビューした現行型カローラ/カローラツーリングは、歴代カローラ初の3ナンバーとして話題になったが、日本向けと海外向けで、ボディサイズをわずかに変えている。

 日本向けには、フェンダーやドアパネルのふくらみを削り、全幅で35mm、全長も135mmも縮小させるという、かなりの「手間」をかけている。

 ボディサイドのデザインつくり分けは、側突性能や空力性能などに影響を及ぼすため、全体バランスを取り直す必要がある(ドアミラーの形状も作り分けているそうだ)。

 また、ホイールベースのつくり分けは、後席の居住性や燃料タンクの容量、さらには運動性能にも影響を及ぼす為、それぞれで性能をつくりこまなくてはならなくなる。似たようなデザインだが、ほぼ2台の別のクルマをつくっているようなものだ。

日本市場向けのカローラは、海外モデルに対して、フェンダーやドアパネルのふくらみを削り、全幅で35mm、全長も135mmも縮小させるという、大改造を施している
日本市場向けのカローラは、海外モデルに対して、フェンダーやドアパネルのふくらみを削り、全幅で35mm、全長も135mmも縮小させるという、大改造を施している

 カローラの場合、生産工場は世界中にあり製造ライン(=金型)が別となるため、「グローバルワンスペック」にしなくても製造コストはそれほど変わらない、という事情もあるが、これだけの手間をかけられるのは、人・モノ・カネのあるトヨタだからできるのであろう。

 日本市場に向けた、新型SUVや新型セダンがないことを嘆くユーザーは多いが、トヨタ以外の国内メーカーには、そうはいかない事情もある。

 ミドルクラス以上のセダンやSUVは海外市場をメインマーケットにすることがほとんどだが、日本向けのハイト系ミニバンと軽自動車は、トヨタ、ホンダ、日産も、日本人のユーザーの声を大いに反映しているからこそ、あれだけヒットしているのであろう。

【画像ギャラリー】自動車の作り手から見た事情と苦悩……『ユーザー目線のクルマ作り』はどの程度まで可能なのか?

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