■一度途絶えさせた代償は大きかった
対するトヨタの場合。トヨタの大排気量の量販スポーツカーは、2002年8月にA80スープラが生産終了したことで、一度途絶えてしまっている(LF-Aは特殊な事例として除く)。トヨタは、スープラを復活させるために必要な、ヒト・モノ・カネへの投資と時間が、相当かかると見込んだのだろう。
選んだ相手がBMWだったのは驚いたが、大排気量2シータースポーツカーを作り続けてきたBMWと協業することで、新型スープラを開発し、その過程で大排気量スポーツカーのつくり方を吸収しよう、と考えたと思われる。
スープラではないが、以前、GRヤリスの試乗会に参加した際、開発担当者が「2000年以前のスポーツ4WD(セリカGT-Four時代)をつくった経験のある技術者が残っておらず、GRヤリスの開発は、昔の報告書をすべて引っ張りだして、研究するところから始めた」という話をしていた。
開発に着手できるまでに、相当な時間が必要だったそうだ。
2019年5月に誕生したA90スープラの価格は2.0L直4が499万円~、3.0L直6は731万円と、とんでもない価格で登場した(※A80スープラは300万円前半で買えた)。もし、トヨタの自社企画&自社製造であったならば、100万円近くは安くなったんじゃないだろうか。
現行のフェアレディZは、3.7L V6エンジン車で税込397万円~。一般的なクルマとしては高いが、2シーターのV6 NAエンジンのスポーツカー、という贅沢な内容を考えたら、安いといっていいだろう。これは日産に、「Zをつくり続けてきた」ことによるたくさんの「資産」があったからこそのことだ。
■Zリニューアルに前向きなメンツが揃った
また、日産にとって「フェアレディZ」は、ブランドのシンボルであり、社員のあいだに「二度と絶やしてはいけない」という思いが強くあった、ということもあるだろう。
日産には、フェアレディZやGT-Rがつくりたくて入社したエンジニアがたくさんいる。5年前まで日産社員であった筆者も、日産のスポーツイメージに憧れ、「日産で車両開発に携わりたい」と思い、入社したうちのひとりだ。
子供のころから「Z」というクルマを知っていて、大学の自動車部に入り、そしてZの開発に携わりたいと、日産へ入ってきた仲間もいた。
エンジニアたちには「準備」ができていた。上層部のGOサインさえ出れば、開発は難しいことではなかったのだ。
そこに、2019年12月、内田CEOというフェアレディZに熱い思いを持ったトップが誕生した。トップの引っ張りに加えて、日本マーケットの責任者である星野副社長(市場調査部隊の元室長)の押し上げもあったのだろう。そうした運命が重なって、Zがリニューアルするタイミングが整ったというわけだ。
新型Zの北米市場での開始は2022年春の予定。冒頭で触れたように、日本の「フェアレディZ」の発表は今冬、ということで、より詳細な情報が開示されるまでは、もう少し待たねばならないだろう。
筆者はZ34型が最期のフェアレディZになると考えていた。いまは、新型Zを発表するまでに至った日産に、祝福と共に「ありがとう」といいたい。
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