ポルシェといえばドイツが世界に誇るスポーツカーメーカーだが、そんなポルシェをベースにチューニングする名門がある。それが「RUF(ルーフ)」だ。
ポルシェ930をベースにしたCTR(通称:イエローバード)などのコンプリートカーが有名だが、実はノーマルの911をチューンアップするエンジンコンバージョンキットが用意されているのはあまり知られていない。
今回は意外にもリーズナブルにパワーアップを図れるRUF純正のエンジンコンバージョンキットの詳細を、日本正規インポーターへの取材も含めてお届けしよう。
文/大音安弘、写真/RUF
■知ってるようで意外と知らない!? RUFってどんな会社?
ポルシェのチューナーとして有名なRUFが、新たにポルシェ911のタイプ991とタイプ992向けの新たなエンジンコンバージョンキットを発表した。これは標準車でも高性能な911をベースに取りつけることで、大幅なエンジン性能の向上を図るというチューニングキットだ。
そんなRUFの名前と存在を知っているクルマ好きでも、どんな会社かまでは知らない人も多いはず。そこでRUFについて知るべく、正規インポーターであるRTCに、キットの内容だけでなく、RUFの歴史から最新コンプリートカーまでをお話を伺った。
●911の実力を引き出す驚異のキット
ドイツ・RUFオートモービルGmbHの日本インポーターであるRTCは、2021年10月20日に、RUFエンジンコンバージョンキットの新商品の日本提供開始を発表した。
このキットは、対象とするポルシェに装着することで、更なる高性能化を図るもの。対応車種は、一部カイエンを含むが、その中心は911だ。今回の新商品は、911タイプ991用となる「Rc91」と「R91」、タイプ992向けの「Rc92」と「R92」の4タイプがあり、価格は、176万円(税込)~となっている。
新キットの内容と性能の一例として、991カレラ系に対応する「Rc91」と992ターボに対応する「R92」の二つを取り上げてみた。まず「Rc91」は、性能の異なる2タイプあり、「Rc91-460」は、後期型となる991カレラ及991カレラSに適合。
ECUのコンバージョンとスポーツエアフィルターの交換を行うことで、最高出力460ps/6500rpmと最大トルク570Nm/2400~5200rpmまで向上。価格は、176万円となる。
より高出力化を図る「Rc91-550」は、後期型の991カレラとカレラS、さらに991カレラGTSに適合。ECUコンバージョンとスポーツエアフィルターに加え、カレラとカレラSではターボチャージャーも大型化される。
ターボチャージャーの変更ないGTSには、高強度と軽量化を両立するRUFインコネルエキゾーストをオプションとして設定。キット装着により最高出力550ps/6500rpm、最大トルク620Nm/2800~5600rpmまで向上される。価格は、カレラ及びカレラS用が308万円。GTS用が176万円~275万円となる。
992ターボ及び992ターボSを対象とする「R92」も性能の異なる2タイプを設定。「R92-750」では、ECUコンバージョンとスポーツエアフィルターの交換で、最高出力750ps/6900rpmと最大トルク900Nm/4800rpmを実現。価格は176万円となる。
さらなるパフォーマンスを追求する「R92-830」は、ECUコンバージョンとスポーツエアフィルターの交換に加え、スポーツエキゾーストシステムとインコネル製エキゾーストマニフォールドの装着、VTGターボチャージャーコンバージョンまでが含まれる。
その結果、最高出力830ps/7000rpm、最大トルク930Nm/4400rpmまで向上。価格は523.6万円となる。どれほどベース車との性能差があるのかを一部仕様を抜粋し、以下に表でまとめてみた。
装着時は、別途工賃が必要で、Rc91-460の場合、5.5万円。R92-830で27.5万円になる。
どちらの仕様も高性能化が図られているが、設計上の狙いは、ピーク値の向上ではなく、軽快なレスポンスと滑らかな出力特性でドライバーの意思に忠実なエンジンに生まれ変わらせることだという。
しかもメンテナンスについては、導入前の標準車と同じ間隔で定期メンテナンスを行えばOKというから、チューニングカーといえど、維持や扱いの難しさがないことが分かる。つまり、本来の911の性能を高い信頼性を失わずに引き出しているのだ。そのため、足回りなど基本的な部分は、標準車のままなのだ。
●実は自動車メーカーであるRUF
日本のクルマ好きの多くはチューナーだと思っているRUFだが、実はドイツ公認の自動車メーカーのひとつだ。現在市販される最新モデル「SCR」は、今も絶大な人気を誇る930や964を彷彿させるスタイルのスポーツカーだが、なんとRUFのフルオリジナルなのだ。
RRレイアウトされる自然吸気の4.0Lの水平対向6気筒エンジンは、最高出力510ps/8270rpm、最大トルク470Nm/5760と超高回転型。これを6MTで操るというからシブい。全長4207mmと1250kgの軽量コンパクトなマシンだ。
インテリアも、往年のポルシェを彷彿させるもので、ノスタルジックな雰囲気。まさにクルマ好きの心を鷲掴みにするスポーツカーに仕上げられている。その価格は、なんと85万ユーロ。現在のレートで1億1000万円ほどの超高級車である。
生産工程は、全てハンドメイド。今は月産3台程度というから、超希少な存在でもあるのだ。このため、この価格も致し方なしといえ、まさにマニア憧れの存在といえる。
そんなRUF社の歴史を簡単に振り返ってみると、1939年にドイツ南部のバイエルン州プファフェンハウゼンにて、ルーフ氏が立ち上げた整備工場に始まる。
その後、新車ディーラー事業を行いつつ、ドイツの観光業の盛り上がりに目を付け、ドイツ初のフルサイズ観光バスの自社生産にも着手。つまり、自動車メーカーの一歩は、意外にもバスだったのだ。
さらに燃費向上と税器対策の為に、敢えて排気量を700ccまでダウンさせたRUF ビートルを手掛け、これがヒット。自動車の販売と整備を手掛けながらも独自のモデルを送り出すなど、自動車開発に強い関心があったようだ。
しかし、この時点ではポルシェとは特に結びつきはなかったよう。そのきっかけとなったのは、偶然にルーフ親子が遭遇した事故がきっかけ。その際、損傷したポルシェ356の修理を請け負い、作業を勧めていくうちに、ポルシェの魅力にハマってしまったという。
その後、当時幼かったルーフ・ジュニアの情熱は、ポルシェに向かう。1971年には、ポルシェ911Sのチューニングモデルを完成。このルーフ・ジュニアは、現CEOでもある。77年には同社初のポルシェ・コンプリートカー「RUFターボ3.3」を発表する。
これは3.3Lにボアアップしたターボエンジンが特徴であった。RUFのエンジニアリングで興味深いのは、単に性能向上を図るだけでなく、当時ポルシェ社が、4速マニュアルで十分とした911ターボ用の5速MTを開発して、1981年より生産開始したこと。
後に、ポルシェ自身も911ターボを5速化したことからも、先見の明と技術への拘りが感じられるエピソードだ。
オリジナルスポーツカーを手掛けるようになったのは、2007年の「CTR3」から。このクルマは、シャシーやボディがRUF製となり、ベース車が存在しない初のコンプリートカーとなった。
コメント
コメントの使い方