日本橋の景観はいったいどうなる?「首都高都心環状線地下化で失われるもの」

■日本橋付近を地下化しても実用上のメリットが薄い!

 合計1兆5000億円かかった山手トンネル(首都高C2)は、劇的な渋滞緩和効果があったため、長期的に見れば充分ペイする事業だが、日本橋付近の地下化には、渋滞緩和効果がほとんどない。車線数は現在と同じ(2+2)だし、勾配とトンネルはともにサグ(くぼ地)効果を生むので、渋滞が悪化することもありうる。

 首都高は、「路肩の広さが現在の0.5mから1.25mに広がって走行性が向上する」と謳っているが、差し引きトントンがいいところではないか?

事業概要によると首都高C1地下化により、「路肩の広さが現在の0.5mから1.25mに広がって走行性が向上する」という
事業概要によると首都高C1地下化により、「路肩の広さが現在の0.5mから1.25mに広がって走行性が向上する」という

 また、江戸橋JCTを通過する交通量が減少することで、箱崎JCTを先頭にした最大渋滞長が現在の3.0kmから1.5kmに短縮されるとも試算しているが、これは、山手トンネルの効果に比べたら、ミクロのレベルである。

 となると結局、日本橋付近の地下化による最大の効果は、「景観の向上」ということになるが、前述のように、これが最も疑わしい。現状の景観が醜く、首都高がなくなれば美しくなるという、小池都知事の認識は正しいのだろうか。

■首都高は世界に誇る都市景観だ!

 例えば、「東京タワーがなくなれば、芝公園の景観がよくなる」という人がいるだろうか。首都高は、見方によっては、東京タワーにも匹敵する東京を代表する景観のひとつ。それがまったく理解されていない(美醜の判定に正解はないですが……)。

 パリにエッフェル塔が建設された当時、その景観を醜いと嫌う文化人が多数おり、モーパッサンは「パリで塔が見えないのは、この場所だけだ」と、しばしばエッフェル塔のレストランで昼食をとったというが、現在は、パリを象徴する景観になっている。美意識は常に変遷するものなのだ。

明治・大正における日本の作家たちに大きな影響を与えたとされるモーパッサンはパリのエッフェル塔を毛嫌いしていたという。1964東京五輪に向けて作られた首都高、同じく毛嫌いするだろうか
明治・大正における日本の作家たちに大きな影響を与えたとされるモーパッサンはパリのエッフェル塔を毛嫌いしていたという。1964東京五輪に向けて作られた首都高、同じく毛嫌いするだろうか

 首都高は、東京タワーと同じく、戦後日本の高度成長期の突貫工事の象徴である。絶望的な交通渋滞を緩和するため、そして64年開催の東京オリンピックに間に合わせるため、首都のすき間に無理矢理クネクネと高架道路を通した、このグランドデザインなき都市計画こそ、昭和のダイナミズム。この猥雑さこそ東京が世界に誇る都市景観だ。つまり首都高は、我々日本人の歴史的建築遺産なのである。

■失われるもの

 首都高は決してダサくない。ダサいどころか超クールである。まさにレトロなSF映画の世界。都心環状線など、建設から半世紀以上を経過した古い路線ほど、クールさに満ちている。

 それを地下に隠し、明治日本が西洋に倣って建設した石の橋(日本橋)を麗々しく青空の下に復活させて喜ぶのは、感覚があまりにも古典的すぎないか?

 日本橋地下化の完成予想図を見ると、20年後の日本橋付近は、どこかで見たような心地よくも人工的な、なんの深みもない水辺空間になるらしい。

首都高速の地下化Before/ After。この高速道路が→
首都高速の地下化Before/ After。この高速道路が→
こうなるという。昭和バイタリティの象徴ともいうべき光景が失われ、クリーンな都市風景に
こうなるという。昭和バイタリティの象徴ともいうべき光景が失われ、クリーンな都市風景に

 一方、日本橋に隣接する首都高江戸橋JCTの俯瞰写真は、今でも日本および東京を代表する景観としてよく紹介される。今後再開発された日本橋がそうなることは、決してないだろう。

 私は今年3月、自らのフェラーリ(328GTS)で、早朝の日本橋に行ってみた。

西洋から学べと造られた日本橋。追いつけ追い越せと造られた首都高。そして西洋的な美的感覚が結集された328GTSのコラボレーション。これが時代を超えて調和する
西洋から学べと造られた日本橋。追いつけ追い越せと造られた首都高。そして西洋的な美的感覚が結集された328GTSのコラボレーション。これが時代を超えて調和する

 それは、想像したよりもはるかに美しい光景だった。フェラーリがたたずむ日本橋は、上空の首都高の造形美と照明によって、宮殿のエントランスのように見えた。

 この景観が失われるのは実に惜しい。

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