2021年10月31日~11月13日に開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、2040年までにガソリン車の新車販売を停止し、すべてをゼロエミッション(排出ゼロ)車とする宣言に、日本や米国、中国などの主要国は参加をしないことを表明した。
EV化に前のめりだったが政権が変わりガソリン車禁止を見送ったドイツや、フランス、韓国も参加をしないことが判明した。やる気だったのはEUを離脱した議長国のイギリスと、スウェーデン、オランダなどの欧州を中心とした都市だった。
なぜ世界でEV偏重論が先行するのか? 世界の情勢と、日本が進むべき方向性はどこなのか? 考察していく。
※本稿は2021年12月のものです
文/国沢光宏
写真/TOYOTA、AdobeStock(トップ:golibtolibov@AdobeStock)
初出/ベストカー2022年1月26日号
■電動化は絵に描いた餅? 日本も「調印せず」 世界含めた思惑とは!?
気候変動についての枠組みを決めるパリ会議『COP26』で、環境問題重視国は2040年までにガソリン/ディーゼルエンジン搭載車の販売中止を決めようとしたものの、意外や意外。
VWをはじめ電気自動車(EV)に注力するメーカー多いドイツが「調印しない」。当然ながらアメリカや中国も「そんな約束できない」。EVの普及推進をしているだけじゃなく、COP21(パリ協定)の議長国だったフランスまでも「今回は見送る」。日本といえば「調印しない」となった。
ちなみに我が国は2050年にカーボンフリーを公約しており、実質的に2030年代中頃からエンジン搭載車の新車販売ができなくなる。2040年のエンジン搭載車販売中止は飲めると思う。なぜ条約の批准をしなかったのか? 興味深いことにドイツなど今回”逃げた国”はすべて自動車メーカーを複数持つ。批准に向け積極的に動いていたイギリスやオランダなどは自動車メーカーなし。スウェーデンのみ自動車メーカーを持つ批准推進派ながら、ボルボは全車EVにする方向だ。
※国として不参加だが、ゼネラル・モーターズ(米国)、フォード・モーター(米国)、ダイムラー傘下のメルセデス・ベンツ(ドイツ)、BYD(中国)は自動車メーカー単体での参加を表明している。
逆に考えると世界中の自動車メーカーからすれば「2040年のエンジン搭載車販売中止なんて無理でしょ」なワケです。なぜ無理か? いくつか理由がある。
まず電池。直近のEV販売台数を調べると、2020年で年間220万台。2021年が300万台に近づくだろう。そんな状況ですらリチウム電池の供給能力はギリギリ。電池を作る工場だけでなく、材料まで足りない。本来なら量産効果でコストダウンするハズなのに、高止まり状態。安価なリン酸鉄リチウム電池も値上がり中だ。
世界中の自動車を電気化しようとしたら、現在の10倍規模の電池が必要になってくる。2040年まで18年。この間に材料の調達を含めた電池の生産量10倍増は、相当ハードルが高い。加えて国連で2040年の販売停止を決めてしまったら、調達圧力が掛かり、電池価格が高騰することだって考えられるだろう。
原油価格を決めるのは産油国。紛争があれば高騰。電池の需給バランスが逼迫したら、今度は電池覇権を持つ国に主導権を奪われてしまう。
二つ目は充電インフラ。我が国にも言えることながら、エネルギー問題を解決しようとしたら国が動かなければならない。なのに、エネルギー政策は政治的な課題をたくさん抱えている。我が国でいえば原発利権でしょう。原発を作るにあたり、考えられない規模でお金をばらまいた。原発利権が残る限り、地熱発電に代表されるベース電源(一定の発電量を持つ発電方法)のポジションは作れないだろう。
三つ目に、世界規模で見るとエネルギーインフラが大きく違うこと。すでにブラジルなどバイオエタノール100%の燃料をガソリンよりも安価に流通させており、カーボンフリーに相当近い(バイオエタノールを作る際、少量ながら二酸化炭素を出す)。いや、ブラジルはアマゾンで大量の二酸化炭素を吸収しているから、トータルで考えたらマイナスカーボンだと思う。
アフリカや新興国など、先進国と違う事情もある。日本やドイツの判断は間違ってない。
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