「10年前の今日、日本列島の半分が大きな被害を受け、私たちは悲しみのどん底に突き落とされました。当時、日本の自動車産業は“六重苦”と呼ばれる、非常に厳しい経営環境と戦っていました」
冒頭、豊田章男会長の、このひと言から日本自動車工業会(以下、自工会)会長の定例会見が始まった。
2021年3月11日。節目の日にオンラインで開催された会見で日本の自動車業界のリーダーが語った復興への想い、そして「車がすべてEVになればいい。そんな単純なものではない」と豊田会長が語った真意とは?
文/ベストカーWeb編集部
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震災から10年――東北復興とクルマ
「他の産業が海外にシフトするなかで、自動車産業は、まさに石にかじりついて日本の雇用を守り、モノづくりの基盤を守り抜いて参りました」
1ドル80円台という超円高に加えて、原発事故に端を発した電力不足。東日本大震災直後の自動車業界は、大きな試練を迎えるなかで、東北ともに日本のモノづくりを守ってきた。そんな10年間の歩みと自負から、豊田章男会長は語気を強めて語った。
日産は福島(いわき工場)でエンジンの生産を続け、トヨタも中部・九州に次ぐ第三の拠点と位置づけ、人材育成の学校(トヨタ東日本学園)も含めた自動車生産の基盤づくりを継続。多くの自動車メーカーが東北とともに歩んできた。
加えて、豊田会長が「何よりも大きかった」と言うように、東北の多くの地元企業が、自動車部品の製造にチャレンジしたことで、東北における自動車産業の雇用は2010年から2018年にかけて8000人増加、自動車部品の出荷額も8100億円増加するなど、目に見える効果を生んだことを強調した。
実は、東北で生産されたクルマのうち83%が電動車を占めている(2012-2019年の累計、全国平均=54%)。ここから話は「カーボンニュートラル」に移った。
カーボンニュートラルは誤解だらけ!? すべてEVにはできない理由とは
カーボンニュートラルは、ライフサイクル全体でみたときに、二酸化炭素の排出量と吸収量がイコールになる、つまりプラスマイナスでゼロになるということを示す。
当然、その文脈で電動化の推進が言われるわけだが、クルマのことを理解している方ならご存じのとおり、電動車は必ずしもピュアEVだけを指す言葉ではない。
ところが一部では、さまざまなクルマの役割を無視して電動化=EV化を急速に推し進めること、という誤った理解や報道もみられる。そうした流れが冒頭の「車がすべてEVになればいい。そんな単純なものではない」という豊田会長のコメントの真意だった。
カーボンニュートラルは、自動車業界だけでは達成できない。エネルギーのグリーン化が必須となってくる。2050年までに、クルマを作って最後に廃棄するまでの一連の流れで、二酸化炭素をゼロにする。これがクルマにおけるカーボンニュートラルのひとつの定義。
だからこそ、「EVで走る=二酸化炭素を排出しない。だから、すべてEVにすればいい」という考え方も出てくるわけだが、これに対して材料から部品の製造、車両製造、廃棄まで全過程で二酸化炭素をカウントするやり方で考えると、「同じクルマでも作る国によって二酸化炭素の値が変わってくる」というのが豊田会長流「ライフサイクルアセスメント」の理解。
例えば、日本は火力発電比率が75%、なおかつそのコストも再生可能エネルギーより高い(ちなみに、欧州や米国は再エネのほうが安価)。そうなると、EVを作ってもカーボンニュートラルにはならない。
「これからは再生可能エネルギー導入が進んでいる地域・国への生産シフトが予想される」(豊田会長)というが、そうなると例えば、東北で作ったヤリスと(再エネ比率の高い)フランスで作ったヤリスではまったく意味合いが異なる、ということになる。
これは輸出で成り立っている部分が大きい日本車や日本の自動車産業にとっては大きな課題。雇用にも直結する。
だからこそ豊田会長が「日本には電動車フルラインナップと省エネという強みを持った自動車産業がある」と言うように、ハイブリッド車やアウトランダーやRAV4に代表されるPHV、MIRAIのFCVといった国産車が大きな意味を持ってくる。
たしかに、いくらEVが普及しても、その電気を作る過程で二酸化炭素を排出してしまっているのではせっかくのゼロエミッションも意義が薄れる。
特に過渡期の現在においては、様々な仕向け地や車種の特性によってパワーユニットを作り分ける必要があり、内燃機関も使いながらハイブリッドを含む電動化を進めていくことが必要だろう。
何より、ひとつのパワーユニットに依存しないことは、リスクヘッジやクルマのバラエティの豊富さを確保するうえでも意義がある。
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