■環境への対応は「貢献」から「必須項目」に
カーボンニュートラルと言えば、かつては管理するICPP(政府間パネル)と政府との交渉事で、1国が決定する貢献(NDC)が定められ、罰金や規制で企業を管理するコンプライアンス的な性質でした。
今や「市場メカニズム」に主眼が移行し、自主的炭素取引市場、企業の環境開示や戦略性などの対応力が問われています。
昨年(2021年)はNDCで約束した2030年中間目標の引き上げラッシュとなりました。欧州は40%減を55%減(1990年比)、日本は26%減を46%減(2013年度比)、米国は28%減(2025年目標)を52%削減(2005年比)としたのです。
輸送部門が全体排出量に占める比率は日本で約2割弱、欧州で3割弱、米国3割強。
その主体である自動車メーカーは自らの存在理由を示すためにも、新目標に準拠できる2030年に向けたBEV推進の技術や財務戦略、ガバナンス(統治)構造を説明する必要に迫られたのです。
産業全体で電動化戦略をグレートリセットし、エポックメーキングな1年となったのはこういう背景があるのです。
■日本のCO2削減にBEV推進は有効なのか?
日本の輸送部門は2030年までに5200万トン、2013年比で35%のCO2削減が定められています。この規模は過去20年間の削減累計5200万トンに匹敵します。
では、欧州のようにBEVを推進すれば解決に近づけるかといえば、日本は実現困難です。
国内再生可能エネルギーの発電比率は19.5%に過ぎず、このエネルギーミックスでは発電や電池製造工程を含めればBEVはハイブリッドよりもCO2を排出してしまいます。
中間目標達成には3500億キロワット/時の再エネ発電量が必要となり、日本自動車工業会の試算では総額25兆円(年間1.4兆円)近くの投資が必要となります。
この費用は車両コストへ跳ね返り、自動車産業の国際競争力を引き下げる懸念があるのです。
トヨタの全方位電動化やウーブンプラネットのソフトウェアとは、この八方塞がりの難局を切り開こうとしている戦略と言えるでしょう。
こういった詳細を今後の連載でお伝えしていこうと思います。
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
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