■いつものマイケル・ベイとは別の一面も
もちろん、ベイなのでアンビュランスを追いかけるパトカーの大チェイスがあり、実際のロスの大きな交差点を封鎖して撮影したという激しい銃撃戦もある。
救急車がフリーウェイを逆走したり、『ターミネーター2』等で知られるロサンゼルス・リバーの河川敷を走る車を、空から2機のヘリが追いかけたり、次々とパトカーが増殖してチェイスを繰り広げたりと、アクションの見どころも多い。
実際のロケーションをフル活用し、終始動き回るカメラを使って、さすがベイらしいハンパない臨場感を演出しているのだが、やはり印象に残るのはアンビュランス内で展開する兄弟のスリリングな駆け引きとやり取りのほう。こういうベイ映画も珍しいかもしれない。
というのも、実はこの作品、デンマーク映画、劇場未公開の『25ミニッツ』(05)の脚本を原案とした作品。母親の手術代欲しさに銀行強盗をしでかした実の兄弟が救急車をジャック。
だが、車には心臓発作の患者と救命士が乗っていたというストーリーで、骨子の部分は重なっている。原題は同じく「アンビュランス」なのだが、邦題は心臓発作の患者を救うタイムリミットになっている。
デンマーク製だからなのかアクションは最低限で、兄弟が患者を救うかどうかでずーっとケンカしているという印象が強くハラハラというよりイライラが募り、後味も驚くほど悪い。ハリウッドがもっと元気の出るような映画に替えたくなる気分もわかる。
■クルマ好きマイケル・ベイの趣味がチラホラ
ちなみに、本作ではほとんど高級車は登場しないが、車の窃盗もやっているダニーの大きな倉庫にはコルベットを始めとした美しい車がズラリと並んでいる。また、もうひとつの主役でもあるアンビュランスはファルク社の最高級救急車“ヒーロー”をチョイス。
外装はベイのセンスを取り入れ、オリジナルのペイントを施しているのだが、ファルク社はこのペイントを気に入り実際に採用することになったという。さしずめ“アンビュランスのアンビュランス・モデル”ということになるのだろうか。
また、彼らを追うLAPDのモービル・コマンダー・ユニット(MCU)の使う車は、ピックアップトラックで知られるラム社の新型TRXトラック。これをカスタマイズして使用している。まだ未発売のTRXを使うところがベイらしい。
そして、これもベイらしく、カラフルなローライダーも登場している。メキシコ人の車窃盗団の車で、メキシコのカルチャーを連想させるカラフルなペイントが印象的だ。冒頭のダニーの高級車とは対照的で面白い。
●解説●
ガンを患った妻のために必要な手術代は23万ドル。しかし、国のために戦ったにもかかわらず保険や保障は何もなく一銭も出してもらえなかった。絶望する退役軍人のウィルは犯罪者の兄ダニーを久しぶりに訪れ、金の工面を頼む。
ダニーがもちかけたのは銀行強盗。320万ドルもの大金が手に入るという。計画は上手く行くはずだった……。
本作のアイデアが浮上したのは5年前。脚本を製作総指揮を務めているクリス・フェダク(TVシリーズ『CHUCK/チャック』)がデンマーク人のマネージャーに『25ミニッツ』を紹介され、これをハリウッド的なカーアクション映画へと生まれ変わらせたと言う。
彼が目指したのはダイナミックなアクションを含む作品。そうなればマイケル・ベイの名前が浮上するのは当然と言えば当然だろう。
ベイがこだわったロス市街地でのロケのほとんどが可能になったのは、ロスを知り尽くし、フィルムLA(ロサンゼルスの公式フィルムオフィス)と密接な関係性をもつ優秀なロケーションマネージャーがついていたからだという。
また、デンマーク版では実の兄弟だが、本作では養子縁組による白人と黒人の兄弟。ダニーの説得にあたるのは同性婚をしているFBI捜査官と、いまどきの多様性を盛り込んでいるのも特徴的。脇にもドラマも用意しているあたり、やっぱりこれまでのベイとは違う!?
* * *
『アンビュランス』
2022年3月25日全国公開
配給:東宝東和
(C) 2022 Universal Studios. All Rights Reserved.
コメント
コメントの使い方