ライバル不在のワケはCX-8の出自にあった
それにしても、なぜCX-8は、3列目のシートがほかのSUVに比べて格段に快適なのか。またCX-8に匹敵する3列目を備えたSUVが登場しない理由は何なのだろうか。
まずCX-8が2017年に発売された背景には、マツダのプレマシーやビアンテといったミニバンの廃止があった。2012年に初代CX-5と現行マツダ6を発売した後のマツダは、魂動デザインとスカイアクティブ技術に基づき、OEM車を除くと運転の楽しいクルマ造りを進めている。
そのために2012年以降のマツダは、重心が高く、ボディ剛性を確保しにくいミニバンや背の高いコンパクトカーを開発しなくなった。そこでミニバンの需要を受け継ぐことも視野に入れ、3列目シートの快適なCX-8が企画されたという背景がある。
CX-8は、一見するとCX-5のロング版に思えるが、実際は海外で売られるCX-9の幅を狭めて開発された。その方がCX-5のボディを伸ばすのに比べると、合理的に開発できるからだ。
そしてCX-8は、ボディの大柄なCX-9をベースに造られたから、全幅は1840mmでも、全長は4900mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2930mmと長い。そのために前述のように3列目が広く、マツダはプレマシーやビアンテからの乗り替え需要を狙ったのだ。
ミニバンの後継だったCX-8は倍以上の価格設定! 販売現場はヴォクシーのOEMを切望も独自路線へ
ところがCX-8は、プレマシーやビアンテのユーザーを受け継ぐことはできなかった。価格が大幅に違ったからだ。プレマシーで売れ筋の20Cスカイアクティブは、価格が200万円少々で、値引き額も多かったから170万円前後で販売されていた。その点でCX-8の価格は、2017年の発売時点では、最も安価なグレードでも319万6800円だ。そうなるとCX-8の価格は、プレマシーの約2倍に達する。ビアンテも売れ筋価格帯は240万円前後で、値引き額を差し引くと約200万円だから、CX-8は100万円以上も高い。
またプレマシー20Cスカイアクティブの全長は4585mm、全幅は1750mmで、最小回転半径は5.3mだ。CX-8は、4900mm・1840mm・5.8mだから、ボディも格段に大きくなってしまう。プレマシーやビアンテに比べて運転しにくいのだ。
これではプレマシーやビアンテの顧客をCX-8に導くことは困難で、マツダの販売店からは「マツダはトヨタと業務提携を結んだのだから(2017年には資本提携に発展している)、ヴォクシーのOEM車を導入して欲しい」という切実な声が聞かれた。結局、マツダはOEM車を含めてミニバンを導入せず、販売店は「プレマシーやビアンテのお客様は、ほかのメーカーのミニバンに乗り替えてしまった」とコメントした。
このようなミニバンユーザーの喪失も影響を与えて、マツダの国内販売は伸び悩む。魂動デザインやスカイアクティブ技術を取り入れる前の2010年は、マツダの国内販売は22万3861台だったが、2021年は15万7261台まで減った。コロナ禍の影響が生じる前の2019年でも、20万3576台だから、プレマシー、ビアンテ、ベリーサなどを扱っていた頃の売れ行きに戻っていないのだ。
マツダがCX-8を設定した背景には、ミニバンや背の高いコンパクトカーを廃止する代わりに、SUVを充実させた事情もある。今のマツダはOEMを除くと9車種を用意するが、その内の5車種がSUVだ。マツダのSUVラインナップを象徴する存在としても、最上級のCX-8が必要だったのである。
一方、トヨタ、日産、ホンダ、三菱は、いずれもミニバンを用意する。そのためにマツダと異なり、3列シートのSUVを使ってミニバンの穴を埋める必要はない。従って全長が4900mmに達するSUVは、ランドクルーザー、レクサスRX450hL、レクサスLXなどの一部車種に限られる。これらはいずれも3列目のシートを用意するが、CX-8に比べると足元空間が狭い。CX-8ほど居住性に重点を置いていないからだ。
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