ボディブローのように響く円安が元凶? ウクライナ情勢と物価高騰への政府緊急経済対策、クルマ界への影響はどうか?

■まずは地方のユーザーが打撃を受けるのは必定か

 その時までに世界情勢が好転し、為替レートや原油価格が落ち着きを取り戻せていればガソリン価格は安定し、クルマのユーザーは大きな痛みを覚えずに今回のクライシスを乗り越えられるだろうが、そうなるかどうかはまさに神のみぞ知る。

 ロシアのウクライナ侵攻が突然終わるなど、日本の努力とは関係ない何らかの「神風」でも吹かないかぎり、秋には地獄の燃料高が日本を覆う。そうなった時、日本はいったいどうなるのだろうか。

 まず、大打撃を受けるのは地方のクルマユーザーだ。総務省の家計調査によれば、都市部と地方部ではユーザーが年間に支払うガソリン代はイメージ以上に大差がある。

 東京23区では年間2万円弱であるのに対し、例えば山口市では年間9万1000円といった具合だ。これはあくまでガソリン価格が穏やかだった時代の話で、リッター200円時代が到来した時の地方経済の打撃は測り知れない。

 このことはクルマの販売に大きな影を落とすことになるだろう。生活必需品としてクルマを使用しているユーザーは、できるだけ倹約して乗り続けるしかないが、クルマをレジャー目的で「走る歓び」として乗り回すこと自体を楽しむユーザーにとっては、その行為を断念せざるを得ないという選択肢が発生しかねない。

■このままでは日本の自動車市場が崩壊する危機に!?

 日本では歴史的に「遊び」を「悪」ととらえる風潮があり、「遊びに補助金などもってのほか」という意見も少なからずあるが、消費を伸ばし、経済を回す一番の原動力は「遊び」であり、クルマの消費もしかりだ。ちょっといいクルマに乗りたい、クルマでドライブ旅行をしたいなどのニーズが燃料高騰で消滅したらどうなるのか。

 生活必需品とはいえ、ガソリン高をきっかけに移動手段として本当に必要かどうかをユーザーが本気で考え始めたらクルマの販売は間違いなく激減する。バブル時代の1990年には年間777万台以上も売れたなどと過去の栄光を懐かしむのもいいが、これからは400万台どころか、300万台以下に減少しても不思議ではない。そうなればいよいよ日本の自動車市場は崩壊することにもなるだろう。

 しかも、販売台数が減るだけではない。販売の質も変化していくことが予想される。具体的には背に腹は代えられなくなり、電気自動車(EV)のほか、ハイブリッド車や軽自動車など燃料消費量の少ないクルマに販売が偏るようになり、それ以外のクルマは売れなくなる。

 EVでもHVでも乗って楽しいクルマであればいいという意見もあるが、事はそう単純ではない。高価なバッテリーを搭載するEVはともかく、HVでも電動システムが高コストなため、クルマの値段が高くなりがち。ガソリン車と同じ価格帯の場合、性能や質感、アミューズメントの部分にかけられる金額はHVのほうが数十万円分少ない。

 輸入車にとってもご難の時代だ。日本は欧米とレギュラーガソリンの規格が異なるため、ほとんどの輸入車は小型車クラスでもプレミアムガソリンを要求する。ガソリン高の時代にさらに高いガソリンを入れなければならないというのはユーザーにとっては痛い。

■多様性を失う日本の新車販売と物流コスト上昇による値上げが待ち受ける

EVのスバルソルテラ。価格は594万~682万円
EVのスバルソルテラ。価格は594万~682万円

 さらに輸入車は円安の影響もより大きく受けるため、大幅値上げは不可避で、輸入車ブランドのなかにはグローバルでみればごく小さな販売台数でしかない日本市場を今後見かぎる動きが出てくる可能性もある。ガソリン高時代のモータリゼーションは多様性を失い、燃費一辺倒のエコカーと軽自動車、そしてこれまた価格重視の小型EVだらけという無味乾燥なものになるだろう。

 マイカーの問題も深刻だが、巨額の燃料費がかかるトラック運輸も甚大な影響を被るのは確実。今年に入って巷では値上げラッシュだが、値上げ額のうちかなりの割合を物流コストの上昇が占めている。補助金が終了して燃料代が跳ね上がれば運賃が上がり、さらなる物価高が起こることは避けられない。

 経済のために物価高を容認すべきという論調がはびこっているが、例えば1000円のものが1100円に値上がりするという消費者が感じる痛みは、消費税が10%から一気に20%になるのと同じであり、その痛みに国民がいつまで耐えられるかは未知数だ。

 そうは言っても、この資源高は世界的なもので、今の円安は国力の衰退と絡んでいる。結局日本を再び豊かにするための成長戦略が描けなければ、資源高と円安のダブルパンチに永久に耐え続けるしかない。

 ガソリン高騰は単に自動車ユーザーだけの問題ではなく、日本が今置かれている世界的ポジションの低下の象徴のようなもの。結局、日本が再び強い国になるしか根本的対策はないのだが、一時しのぎの政策でお茶を濁すような今の政治の指導力では過度に期待するのは難しいだろう。

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