■カタログスペックどおりの高性能
何がテスラの人気を下支えしているのか。
それはひとえに商品力の高さだ。テスラ車はラージクラスの「モデルS」からボトムエンドの「モデル3」まで、おしなべて高性能だ。
筆者は試しにモデル3の加速タイムをGPSで計測してみたことがあるが、静止状態から何のテクニックも使わずアクセルペダルをポンと踏み込むだけで、本当にほぼカタログスペックどおりのタイムが出せてしまうのだ。
0-100km/h加速の実測値はロングレンジという長航続距離版が4.2秒、高出力版のパフォーマンスが3.4秒だった。
速いのは動力性能だけではない。急速充電のスピードも第一級だった。テスラが配備しているテスラ車専用急速充電器、テスラスーパーチャージャーの最新版は最高出力が250kWと非常に高い。
それで実際に充電してみたところ、もちろんずっとではないが、きっちり250kWで受電した。その時の充電電圧がバッテリー定格電圧より少し高い360ボルトだとすると、実に約700アンペアもの電流が流れていることになる。
日本のCHAdeMO規格充電器も最高150kWという高速タイプが登場し、今後設置が始まる見込みだが、その電流は最大で350アンペア。テスラはその倍速なのである。充電できたのは8分あまりで26kWh。おとなしく走れば航続距離200kmぶんに相当する。
■先進的なインターフェースで未来感を演出
素晴らしい走りと高速充電、良好な乗り心地と高い静粛性、それに加えてステアリングスイッチとボイスコマンドを併用することでクルマの操作の大半ができてしまうという先進的なインターフェース。
自動運転はまだまだ生煮えな感ではあったが、テスラより安価な競合モデルが続々登場している今日においてもテスラがまったく失速せずにすんでいるのは、ひとえにこの驚異的な商品力の高さによるものと思われた。
テスラが初めての自社生産モデル「モデルS」を発売したのは2012年。その後大型SUVの「モデルX」を加えた。それらは今日ではほとんど販売されておらず、今日はモデル3や昨年生産が本格化した中型SUV「モデルY」と、より安価なモデルが販売の圧倒的主力だ。
実際、売上高を販売台数で割った平均単価も今年1~3月が5万5282ドル(707万円)と、以前より低くなっている。が、自動運転などのソフトウェアサブスクリプションを含んだ単価が下がっても冒頭で述べたように利益率は下がるどころか、むしろ急上昇している。
安価=儲からないという図式は現状、テスラには当てはまっていない。
■テスラ株は暴騰から適正価格へ
テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は、モデル3よりもさらに廉価なコンパクトモデルを発売するつもりだと公言している。現在はモデル3、モデルYの生産が注文に追いつかない状況でその計画は延期されているが、一説ではそのモデルはアンダー3万ドルになるという。
もし、その価格を実践できて、なおかつ利益を充分に出せるのであれば、追い詰められるのはテスラ包囲網を敷いたはずのレガシー自動車メーカーのほうになろう。
このように、作れば作っただけ売れるという状況にありながら、テスラの株はなぜ暴落というべき下落局面にあるのか。
前提としてあるのはそもそもアメリカの株式市場がバブル状態にあり、いくら将来の成長性を折り込むという側面があったにしても時価総額1兆ドル超というのはさすがに過大評価もいいところだったということ。
株の指標のひとつに、現状の利益を何年積み重ねれば時価総額ぶんになるかという数値(PAR)があるが、テスラは暴落した今の時価総額でさえ、今の潤沢な利益を90年分積み重ねないと到達しない。一時は300年分以上という馬鹿げた数値になっていたこともある。
今くらいが成長期待を目いっぱい折り込んだ「適正」な過大評価とみていい。今回の株価下落はマスク氏がソーシャルメディアのTwitterを買収すると発表した後に下げ足を速めた感があったが、過熱を抑えるのにはちょうどよかったとみることもできる。
原材料の高騰や部品不足が自動車業界を直撃し、マスク氏も経営上の懸念材料として挙げているが、これは業界全体の問題であってテスラ一社が影響を被るわけではない。
また、このところテスラはさかんに価格改定を行っているが、顧客離れは起こっておらず、価格転嫁の耐性は自動車メーカーのなかでも高いことをあらためて証明した格好になっている。
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