最近のトヨタに続きホンダでも、国内の自動車ディーラーで不正車検が行われた。国土交通省関東運輸局が今年5月31日、ホンダカーズ東京中央王子店に対し、民間車検の指定取り消しを行っている。
今回の事例では、サイドスリップ検査(適切にクルマが直進するかを確かめる検査)やブレーキ検査、スピードメーターの検査において、必要な作業を行っていなかった。対象台数は1187台にのぼったという。
なぜ、こうした不正が起きるのか。ホンダディーラー営業だった筆者が、近年相次いでいる不正車検問題が起こる背景について考察した。
文/木村俊之
写真/ベストカーWeb編集部、AdobeStock
■単価値下げが目的の「サービス品質向上」はやめるべき!
「サービス品質向上」これは販売店でよく掲げられるテーマだ。
しかし、これに取り組むことで、整備士へ多くのシワ寄せが起こる。ディーラーの主な仕事は、クルマの販売と点検・整備だ。そのうち、8割以上を点検・整備が占める。ほとんどが整備士の仕事だと言っても過言ではない。
点検・整備には日々入庫してくるユーザーの消耗部品交換や検査だけではなく、営業マンが販売した新車(中古車)への整備やアクセサリーの取り付けなどもある。もちろん、急な故障対応なども日常茶飯事だ。

「早い・安い」といった、わかりやすい「サービス品質向上」に取り組めば、入庫(整備)台数は増えるだろう。しかし、台当たりの単価は下がり、その分多くのクルマを整備しなければ利益には繋がらない。
実際の現場の整備士は、無理なスケジュールで作業することになり、品質向上はおろか、不正に手を染める事態となった。
高い集中力が必要とされる整備士が、今以上に作業ペースを上げることは不可能に近い。削るのであれば、ユーザーへの対応時間だろう。営業マンや受付が、整備士の代わりに御用聞きと説明を行えば、整備作業の効率は上がるはずだ。
しかし、それでは作業内容の説明が間接的になってしまう。本来ディーラーの売りである、「安心と信頼」が提供できなくなるのだ。
現状、メーカーや販売店は「安さ」「早さ」に捉われ、現状に目を向けられていないように思える。結果として目が行き届かなかったことが、不正を生む原因となったのだろう。
■現場の歪みは回り回って整備士不足問題の深刻化へ
整備士は深刻な人手不足に陥っている。筆者も「仕事がキツイわりに給料が安い」「将来性がない」と声を漏らして退職した整備士を数多く見てきた。
こうした未来を知り、自動車整備士学校の学生数は大きく減少している。15年前は約1万2000人もいた学生が、現在では約6000人と半数になっているのだ。
さらに、現場で従事する整備士の平均年齢を見てみると、15年前は40歳だったが、現在は45歳を超える。
一方、クルマの技術はハイテク化が進んで、これまで以上に新しい知識を持った人手が必要となる。つまり、若年層が減少し高齢化することと合わせて、整備士の未来はさらに深刻な人手不足を抱えることになるのだ。
その整備士が退職する原因の多くは「賃金」「労働時間」「業務量」の3つだ。この問題は数十年解決されていないが、解決するのが難しいことだとは思えない。
まずは、整備単価に比例して賃金を上げること。
整備士の数が減っている現代では、その希少性も給与に加味すべきだ。そして、労働時間や業務量を改善するため、整備における薄利多売をやめる。利益が薄い入庫台数を増やしても、整備士の負担になるだけだ。
同時に、ディーラーの技術力は高めなければならない。技術水準を高め、いい技術には高いお金を払う必要があることを、ユーザーを含めた世の中に知ってもらう必要がある。
クルマの性能が格段に向上している現代だからこそ、整備士の専門性を高めるべきだ。さらに国が整備の基準、保安基準などの見直しを図ってもいいだろう。整備士の多重業務を少なくする方法は、様々な角度から考えられる。
兎にも角にも、人手不足を解消しなければならない。今のままでは、新たに不正が起こるのは、時間の問題だ。