ベストカー企画「この1年間に登場したクルマMVP」(2018年8月26日号)。2017年7月から2018年6月までの間に登場した国産車27台を対象に、10人の選考委員が各自40点の持ち点から振り分け、最高評価の1台には必ず10点をつけることがルールというもの。
「どうせ内輪の評論会みたいなもんなんでしょ?」などと侮るなかれ! 選考にあたってくれたのはいずれも本家「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の選考委員を務めるプロ中のプロたちなのである。
今回MVPの座に輝いたのはトヨタの新型クラウン。しかし、当然のことながら低評価をつけた選考委員もいるわけで、それぞれにNEWクラウンのよいところ、そして許せないところを聞いてみた。
※本稿は2018年7月のものです
文:鈴木直也、松田秀士、ベストカー編集部/写真:平野学/選考委員:日下部保雄、鈴木直也、国沢光宏、片岡英明、松田秀士、斎藤聡、飯田裕子、渡辺陽一郎、小沢コージ、岡本幸一郎
初出:『ベストカー』 2018年8月26日号
■NEWクラウンはBMWやベンツを超えられたのか?
さて、今回の選考でクラウンに最高点の10点をつけたのは日下部保雄、片岡英明、斎藤聡、国沢光宏の4氏、しかし最高点をつけた4氏に話を聞いても面白くないし、何よりベストカーっぽくない。白羽の矢を立てたのは、クラウンに9点をつけ、一方でN-BOXに最高点の10点を与えた鈴木直也氏だ。気に入らなかった点も含めて聞いてみた。ズバリ、NEWクラウンはBMWやベンツを超えられたのか?
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(TEXT/鈴木直也)
BMW、ベンツを「超えてる」部分もあるが届かないところも多々ありというのが正直な感想だが、ここではシャシーに的を絞って考察しよう。
純粋に“車格”でみると、クラウンはEクラスや5シリーズと同格だが、ご存じのとおり価格はだいぶ違う。
クラウンは460万〜718万円。対してEクラスも5シリーズもクラウンのトップエンド付近の価格帯でエントリーモデルが始まり、上限はAMGやMなど2000万円近いところまである。
高価なクルマは原価の制約も緩く、必要とあらば高価な足回りパーツを投入可能。調達や生産がグローバル化した今日、この価格差をひっくり返すような下剋上は基本的に起こらないというのが現実だ。
ただ、新型クラウンのシャシー性能は予想以上で、乗り心地やハンドリングは歴代ベストといって間違いない。
新型クラウンで感心するのは、けっこうなハイペースで一般道を飛ばしているようなシチュエーションだ。ステアリングの正確さや外乱に乱されないボディ姿勢のコントロールなど、まさに「地に足がついた」安心感が心地よい。
単に「パッと切ればスパッと曲がる」というスポーティさではなく、ペースを上げても無用に緊張感が高まることなく、常に自然にクルマを制御できるフトコロの深さ。このへんが「いやー、大人っぽくなったなぁ」と感心するところなのだ。
それぞれ味付けは異なるが、Eクラスも5シリーズもベースモデルで目指しているのはこの路線。
平均速度の高い欧州の交通事情では、ピリピリ刺激の強いハンドリングじゃ長距離走行で疲れてしまう。思い切ってスポーティ路線に振ったゼロクラウンから3世代を経て、今度のクラウンはいよいよ熟成を感じさせるモデルとなったことを高く評価したい。
欲を言えば、欧州高級車特有の「滑るように走り出す微低速域の乗り心地」で、もう一歩の努力があったらなおよし。
このへんの洗練度や、小さな舵角や少ないブレーキ踏力まで精密感の揺らがないフィードバックなど、実は高級車は「ゆっくり走っている時の洗練度」が重要なのだ。
大音量でないと「鳴らない」スピーカーではなく、小音量でも臨場感のある音楽を奏でられるのが高級車。新型クラウンはそこに気づいてはいるが、その部分では、まだEクラスや5シリーズのレベルには達していないと思う。
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