「もしバスの運転手が気を失ったら…」安全技術の最先端!! 商用車で世界初搭載

「もしバスの運転手が気を失ったら…」安全技術の最先端!! 商用車で世界初搭載

 2018年6月、日野自動車は大型観光バス「セレガ」をこのほど一部改良し、商用車としては世界初採用となる「ドライバー異常時対応システム(EDSS/Emergency Driving Stop Systems)」を標準装備した。

 EDSSは、ドライバーに急病などが発生した場合、乗客や乗務員が近くにあるスイッチを作動させることで車体を安全に停止させることができるシステム。

 システムの作動時には、ユーザー向けのICTサービスである「HINO CONNECT」を通じ、設定されたメールアドレスに対象の車両と作動時刻、位置情報を通知。より迅速な対応が可能となった。

 このほか、35〜110km/hの範囲で最高速を設定することができる可変式スピードリミッター、全客席へのELR付き3点式シートベルト及び客席シートベルト警告灯、ロングボディ車にAMT「Pro Shift」搭載車を設定している。

 大型商用車に詳しい方であれば、自動運転や衝突軽減ブレーキの技術的最前線が(乗用車ではなく)バスやトラックであることはご存じだろう。今回はそんな安全技術の最先端であるバス界の、さらなる最前線について、『ベストカー』別冊誌『バスマガジン』編集長の末永高章氏に解説してもらった。

※本稿は2018年7月のものです
文:末永高章/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2018年8月26日号


■運転席に干渉せず車体を停止できるEDSS

 日野は大型観光バス「日野セレガ」を改良し、商用車世界初となる「ドライバー異常時対応システム(EDSS/Emergency Driving Stop Systems)」の標準装備など安全性を向上させるとともに、これまで9m車のみの設定だったAMT(機械式自動変速機)をロング車にも搭載車型を設定して発売した。

 AMTはすでにショート車に実装ずみのダイヤル式シフトセレクター、「Pro Shift」と命名された装備だ。そして今回の目玉となるEDSS。これはバスの運行中、ドライバーが意識を失うなど異常が起きた場合に、乗客や乗務員が非常ブレーキスイッチを押すことで、減速して停止する、という安全のためのシステムだ。

新型セレガの運転席インパネ。2017年の改良で4本スポークとなったステアリングは変更なし

AMT車のダイヤル式シフトセレクターレバー。シーケンシャルレバーはステアリングコラムに設置

 つい最近も、運転中のドライバーが気を失った折に乗客が気づいてブレーキを踏んだことで大事に至らずにすんだ、という事故が起きたばかりだが、こういったハプニングの回避をより確実に行えるというものだ。

 観光バスや長距離の高速路線バスには、ドライバーのほかにも乗務員が乗る場合が多く、ドライバーの異変に気づいた際に、このEDSSのスイッチを押すことで、運転席に干渉しなくともバスを停車させることができるようになっている。

左右の最前列上部に設置された客席のEDSS非常ブレーキスイッチ

 また同様に、乗客から押しやすい位置にもEDSSスイッチが設置されているため、同様の対処ができる、というものだ。

 バスはこの時、緊急停止をすることになるが、クローズドコースで試乗した際の感覚でいえば、衝突被害軽減ブレーキの作動時よりは、若干マイルドな停まり方だったと感じる。いずれにしても、こういった安全のための緊急停止機能が装備される時代であればこそ、なおさらバス乗車時のシートベルト装着を徹底しないと、“宝の持ち腐れ”になる。

運転席のEDSS非常ブレーキスイッチはインパネのナビ画面左に設置。乗務員用となる

 今回のリニューアルメニューのなかには、全客席3点式シートベルトと客席シートベルト警告灯という装備も加わった。オプション設定だが、警告灯は全席のシートバックに設置され、乗務員のスイッチ操作で乗客にシートベルトの装着を促す。

 せっかくの衝突被害軽減ブレーキやEDSSを装備していても、その作動時に車内事故が起きては何にもならない。

 これまで重量の問題や観光の妨げになる、などの理由から先送りされてきた国産バスの3点式シートベルトの採用だが、これを機に普及と乗客意識の改善が促せれば、安全効果は何倍も得られるはずだ。

AMT車となり、2ペダルとなったセレガにロングボディ車のペダルレイアウト。非常にレアな光景

*   *   *

 バスの旅がより安全で快適なものになることを願いたい。

 本企画担当としては、医療メーカーなどと組んで、ドライバーの血圧や心拍などを計測する装置を接続し(シートからドライバーの血流等を検知する技術はすでにある)、運行管理者によるチェックを義務付ける、という施策を提案したい。急な疾病だけでなく、居眠り運転の防止にも役立つはずだ。うまくいけばタクシーに、そしてやがて市販乗用車にも活用できる技術ではないか。日野さん、先行投資もかねて開発を、ひとつどうですか。

 ともあれ今回の記事をお読みになられた方は、将来的にこの日野セレガが普及した際、「あそこに緊急停止スイッチがあるんだな」と覚えておいていただきたい。万が一のときに役に立つ…かもしれない。

 ちなみにこの日野「セレガ」の価格は3470万5800~4904万8200円となっている。

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