■セダンこそがシビック
筆者はすべての世代にシビックに乗った経験がある。初代と2代目はすでに新型が発売されたあとで、そのモデルが現役のときではないが、3代目からは現役時代に乗る機会があった。現役時代に乗った最初のシビックが3代目シビック、通称ワンダーシビックだ。
当時、大ヒットモデルとなっていたのがマツダのファミリア。そのころのファミリアはサーファーに人気のクルマで、サーフィンなんてしないのにサーフボードを乗せて走る「陸(おか)サーファー」という現象もあったとされている。
そうしたなか、テレビからルイ・アームストロングのしゃがれ声で『What a Wonderful World』が流れてきた。言わずと知れたワンダーシビックのCMである。
ませガキだった筆者は、子供の頃からルイ・アームストロングが好きで、当時何枚かのLPを持っていたが、この楽曲は知らなかった。しかし、その声を聞けばルイであるとは瞬時にわかる。新鮮な感動とズージャ(ジャズね)な香りが心に響いた。筆者にとってはちょっと背伸びしたクルマという存在がワンダーシビックだった。
今回、試乗したのはセダンであったが、筆者のなかでのワンダーは3ドアのハッチバック。とくにDOHCエンジンを積んだSiはあこがれの的であった。初期のホンダはDOHCエンジンを搭載していたが、1970年代に入ってからはOHCが中心の展開。
1984年のワンダーシビックに搭載されたZC型DOHCはじつに17年ぶりのホンダDOHCだった。当時DOHCエンジンを作っていた国産メーカーはトヨタだけだったこともあり、ホンダのDOHCというだけで気持ちは沸き立ったのである。
さてワンダーの次に記憶に残るシビックといえば、6代目シビックのマイナーチェンジ時である1997年に設定されたシビックタイプRである。
すでにNSXタイプR、インテグラタイプRと2種のタイプRに続くモデルであったが、よりレーシーな印象を与えてくれたのがシビックのタイプRだった。
撮影のために動かしてるだけでも、余計な動きがまったくないピシッと引き締まった動きは、すでにプロダクションカー(改造範囲の少ないレーシングカー)のものだった。こんなもの売っちゃっていいの? というのが初代のシビックタイプRの印象であった。
今回の試乗車はタイプRではなく、セダンのフェリオであった。よくよく考えてみればシビックの元祖はセダンだったのだ。リヤウインドウが垂直近くに配置されるのでハッチバックと思われがちだが、リヤウインドウは開閉せずその下のリッドのみが開閉する、ノッチレスのセダンがシビックの起源。
そう考えればじつはセダンこそがシビックの本流と言えるだろう。歴代のシビックのなかでセダンが設定されなかったのは9代目だけ、そしてその9代目は日本未導入モデルなのだから、より日本にとってのシビックはセダンなのかもしれない。
■シビックの歴史=日本車の足跡
現在、シビックは11代目となった。11代目シビックにもセダンが設定されるが、日本では販売されていない。これがもっとも残念な点でもある。しかし、現在販売されている5ドアハッチバックモデルはトランクが独立していないとはいえ、そのフォルムはセダンに近く落ちついたものとなっている。
シビックのパワーユニットを振り返ると初代でCVCCエンジンを搭載。不可能と言われたマスキー法(当時のアメリカの排ガス規制)を世界で初めてクリアしたクルマでもある。
CVCCは3代目まで使用され、4代目からはOHCながら4バルブ方式を導入、7代目シビックからはハイブリッドモデルも追加というように、つねに排ガスの清浄化を果たしたきたところも時代の移ろいを感じるモデルだ。
そして、なんといってもわすれちゃいけないのがスポーツモデルの存在。初代ではツインキャブモデルをRSと名付けた。RSといえばだれだってポルシェのRS(レン・シュポルト=レーシング・スポーツ)を思い浮かべるが、当時のお役人を刺激しないためにあえて「ロード・セーリング」の略とした。
3代目ではDOHCのSiが登場、6代目でタイプRを設定と、スポーツモデルも重視したことも特徴だ。 今、シビックの歴史を振り返ってみると、自分がクルマに関わってきた足跡そのものであることに気付く。
そしてこの足跡は「日本車の足跡」にシンクロしているようにも感じる。初代のシビックはアオハル(青春)すぎる小僧ッコ、それがズージャ(ジャズね)で大人びてみたかと思えば、タイプRでガッツリ走りにハマる。
そのうちボディは大きくなって落ちつきのあるセダンに成長……。シビックの流れは、一度は日本から外れたが、その流れが止まったことはない。シビックはこれからも歴史を重ね、日本のクルマを象徴するモデルとして続くのだろう。
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